*************
祖母が私の手を引いていた。
目の前には木の塀が続いている。
祖母の家の前の道路の、向かいにあった木の塀だ。
その木の塀沿いをしばらく歩くと、祖母はそっとそれを押し開けた。
一部が戸になっていた。
その向こうには・・・。
広い広い草原が広がっていた。
金色に輝く草原。
葉は緑なのに、金色に輝いている。
細い茎?
葦のよう。
それを静かに揺らす風。
どこまでも、どこまでも広がっていた。
お互い何も言わずに、その草原を泳ぐように歩いた。
しばらく歩くと、祖母がふと立ち止まった。
目の前には大きな山。
迫ってくるような存在感。
淡く紫色に染まった山。
富士山?
<これは・・・>
この”感じ”は・・・。
<神様だ>
風が少し強く吹いて、葦原の草を揺らした。
緑の香りが私を包みこむ。
「・・・さま」
祖母が何かを話したが、風の音でよく聞こえない。
「この子が・・・です」
その山に話しかけていた。
”この子が何?何て言ったの?”
すると祖母の声ではない声が頭の中に響いた。
< 今はまだ・・・ >
(知らなくていい、そんなニュアンス)
山が言ってる。
そう思った。
その後、祖母は私の手を引き、
来た時と同じように木の塀を押して、外に出た。
***********************************************
その夢を見たのは、小学4年生の秋。
当時は奈良に住んでいて、母の故郷がある福岡に、毎年夏休みの間に帰省していた。
ずっと後になって気づく。
あの山は三輪山だ。
しばらくこの山を富士山だと思い込んでいた。
その圧倒的な存在感から。
神そのものである三輪山。
この夢のことをしばらくの間、現実だと思い込んでいた。
それ程、他の夢と違って、「現実感」があった。
次に福岡に行った夏に確かめた。
祖母の家の前の道路に「木の塀」なんて、どこにもない。
それで、「あれは夢だったのか」と思った。
それから何年も経ったある日、母から聞いた。
うちの母方の家系は、夢で霊能力を授ける家系だったのだ。
( つづく )