どこからか風が流れてくる。

少し涼しくて、やわらかな風。

 

何度か、その風がどこから流れてくるのだろうと、起き上がって調べてみた。

家の真ん中の部屋の、どこにもそんな場所はなかった。

 

 

風が顔にまとわりつく。

水の中を泳いでるかのような感覚になる。

あの夢が始まる合図。


初めてその夢を見たのは、中秋の名月の頃。

 

その頃、”月瞑想”というのをしていた。

深い呼吸をしながら、月を思い浮かべ、その光を全身に巡らす。

 

その後、今度は地球の奥深くに意識を伸ばして、

そのエネルギーを全身に巡らすというもの。

 

小説の中で読んだものだったと思う。

 

 

ずっと後になって、それが「前世を思い出す」手段の一つと聞いた。

       
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その日の月は特別綺麗だった。
 

横になって目を瞑っても、その月がありありと

思い浮かんだ。

 

そうしたらあの涼しい風がどこからか流れてきて、顔にまとわりついてきた。


*****
  

高く澄んだ音がした。

水の音?

 

そこは、洞窟だった。

 

ほんのりと明るい。

ヒカリゴケが光を放っていて、洞窟を淡く照らし出していた。

 

(写真はぱくたそ。明るいけどイメージは似てる)

 

(夢を見てた当時の)私と同い年くらいの男の人と何かがいる。

 

猫。羽根がある猫。

普通の”猫”ではない。

人語を話し、理解するのだから。

 

”この子は仲間”

「今の私」がそう理解していた。

しゃべる猫なんて、妖怪か魔物か。

 

そこで、何か”人でないもの”と剣で戦った。

鋭い痛み。

わき腹を”人でないもの”の爪が引っかいた。

 

「少しかすめたただけ」

 

戦いの後、男の人に告げていた。

私は傷口に手を当てた。

そうすると、傷が治っていく。

                        ***

 

 

わき腹が痛む。

 

 

ずきずきする。

目が覚めて思ったのは、

「かすめただけじゃないじゃん」という言葉。

そこには、薄く赤い複数の線

夢の中の”人でないもの”が傷つけた場所と同じ。

 

”この夢は、ただの夢じゃない”

 

そう思った。

赤い線は、しばらくしたら消えた。

今思えば、この日から夢が始まった。

 

この夢は「洞窟の夢」と呼んでいる。

次の年の同じ満月の頃、再び見る。

 

*****


体育館程もある広い空間の洞窟の中。

周りはあふれるような人。

 

目の前を人が歩いていった。

 

頭がリスで、体がギリシャ神話に出てくる

戦士のような体格の人。

なぜ、「プロレスラーのよう」ではなく、そう思ったか。

身に着けているものが、

ギリシャ神話の中の”戦士”のそれだったから。

 

他にも半人半獣がいた。

 

もう思い出せないけど、「リス」は”今の私”にとって、強烈だったらしい。

 

たくさんの”人”の中に、普通の人も混ざっていた。

半々というところか。

 

あくまでも見た目は「普通」であっても、こんなところで屈強な半獣たちといるのだから、そうではないだろう。

 

半獣は強い。

 

”作られたもの”という言葉が思い浮かぶ。

その中にいる私は何者か。

 

まもなく、前方で主催者が声をあげる。

「レースが始まる」

 

「いよいよだね」

そんな言葉を隣の人に声をかけた。

 

あの男の人がいた。

明るいところでみると、結構若い。

16~17くらいか。

 

「リュウだ」

 

そう思った。

翼のある猫もいた。

 

その夢はそこまで。

 

前の夢の前か、違う時か分からない。

 

ただ、レースに参加した人達が、あの”人でないもの”と戦うのだということは分かっていた。

 

****

その頃に見た夢。

洞窟の中に地底湖があった。

 

向こう側に行くには、これを渡るしかない。

多分、ただの水ではなかったのだろう。

指を浸すことすらできない”もの”。

 

「大丈夫よ」

 

そう言った女の人は、にっこりと微笑んだ。

お日さまのようなまぶしい笑顔。

ゆるいウェーブがかかった、 膝まで届く長い髪をしている。

その髪は金色。


名前は「サラ」。

 

サラは呪文のようなものを唱えた。

3人は難なく、その地底湖を泳ぎきった。

 

そこには、リュウもあの猫もいた。

 

猫は水が嫌らしい。

さっさと飛んでいった。

 

******

 

ただ一度、ただ一度だけでも見れば分かる。

他の夢とは違う、その現実感。

 

リアルな感触。

 

そこで傷つけば痛いし、目が覚めると同じ場所に、現実の私の体に反応がある。

 

何より・・・

 

自分の魂の震える音が聞こえる。

これはただの夢ではないと、全身で感じる。

 

その頃、もう一つ、

 

「別の星の夢」も頻繁に見ていた。

夜毎に魂だけが別の世界に行って、色んな経験をするのだと思っていた。

 

「別の世界の私」、「その経験」、

 

すべて今の自分のものだと自然に受け止めていた。

 

 

でも、そこははるか昔の国。

海の藻屑と消えた国。

 

ここは、この国は「ムー大陸」と認識していた。

 

 

何年かの後、佐々木君紀さんの

 

「アトランティス」という小説を読んで驚いた。

その「アトランティス」が私が見た世界の背景とあまりにも似ていたから。

 

「ムー」と「アトランティス」は、決してお互い干渉しない世界。

 

存在は知っていたけど、干渉できない。

なぜかは分からないけど。

 

(別の星の夢 2 に 続く)