そこは奈良だった。
今よりも遠い遠い昔の。
今の私が幼い頃に暮らした場所。
懐かしい山々は、今となんら変わることなく。
間違えようがなかった。
その頃の奈良にはまだ、巨大な湖があった。
奈良盆地がすっぽりと覆われるような大きさ。
夢では、南から北の湖を眺めていた。
耳成山の北辺りからだと思う。
そこに住んでいたからという訳ではなく、雨期ごとに広がる湖が心配だったらしい。
(夢の最初に見たのは、湖。湿地帯を見せた時期の方が短いのかもしれない)
ここからは、ちょっと絵空事のような話。
夢を見た時に今の私の感覚も混じっているかもしれないので、どこまでが空想か、前の世界のことなのかは分からない。
なので、見たままを。
*
ある日、唐突に船が来た。
私はそれを離れた場所から「視て」いた。
肉眼ではなく、透視(遠視?)のよう。
船は白く、とても巨大で、真っ白な帆が風をはらんでいた。
今までに見たことがないその異様な巨大さ。
その船が生駒山の頂上を越えてきたのだ。
静かに、ゆっくりと。
船は<アマノトリフネ>と呼ばれていた。
その時「今の私」は、(過去の?)私の中で、
「山を越えるなら生駒山よりも、もっと南の二上山の方が
低くて通りやすいだろうに」
とのんびりと考えていた。
夢の中の「今の私」は、前の世界のことを夢で見ているのだと分かっていた。
生駒山を越えた後、奈良側に降りた。
夢から覚めた後、
「なぜ、わざわざ生駒山を越えたのか」
と不思議だった。
「奈良の西で一番高い山(当時そう思ってる)を、越えてくる船」
の夢をなぜ見たのかと。
前世と思われる夢の中の、その”不都合な場所を越える船”。
それは本当に前世の夢なのだろうか。
勝手に自分が作り出した、ただの夢ではないのかと。
船が飛ぶこと自体、ありえないことなのだが、何故かそれはすんなりと受け入れていた。
その疑問が、自分の中で解消される日が来た。
夢を見て数年後のことだった。
( つづく )