タクシーは若い女性を乗せた。
花束が顔を覗かせている紙袋2つとピンク色のバッグ。
車が彼女の自宅があるマンションに着く頃には、暖かさか疲れからか寝てしまっていた。
『はい、着きました。』
ハザードボタンから指を離し、ミラー越しに声を掛けた運転手。
「あ、はい。」
スマホで支払う。
大きく開いたドアから冷たい空気が入ってきた。
バッグにスマホを戻してから紙袋の取っ手を握る。
「お忘れ物にご注意下さい。」
運転手は振り返ってバッグと紙袋を確認した。
「はい。」
この眠気は冷たい空気でもすぐには覚めず、タクシーを降りてから二、三歩ふらついたが、紙袋を持ちなおしマンションへ消えて行った。
運転手は、次の客をとりに最寄り駅に向かう。
左折の時だった。
視界の端にピンク色が見えたのだ。
「ん、あれ?
さっきのお客の忘れ物だ。」
車を寄せるとピンク色のバッグを確認した。
落とし物の情報を配車センターに報告しようとしたが、
先ほどからの疑問がそれを止めてしまう。
「やっと思い出したぞ。
あの子、アイドルグループの子だ。
すると、あのマンションに。
困っているだろうなぁ。
まてよ、
こんなチャンス無いだろ。
俺はあのグループの子にいくらつぎ込んできたんだ?」
運転手はバッグを開ける。
スマホ、財布、テレビ局のパス。
「おおっ、おおっ!」
興奮した運転手は素早く助手席の下にバッグを潜り込ませると、車を出した。
基地に戻り、仮病で帰宅する。
家に帰り、バッグの中身を全部あけると、スマホのGPSをOFF。
機内モードでアルバムを見てやろうとしていた。
しかし、ロックがかかっている。
次に
化粧品も見つけた。
運転手はリップを摘まんで眺めていた。
翌日。
某テレビ局のスタジオ。
司会者がアイドルグループの紹介をしている。
タモル
「年末は? 忙しい?」
アイドル
「はい、○○ちゃんが来年卒業で、
みんなで歌うのは最後なんですよね。」
タモル
「あ、卒業。
お疲れ様でした。
俺も司会者卒業したいんだよなぁ。
うそでーす。
じゃスタンバイお願いしまー。」
アイドルグループがステージに上がる。
客
「キャー~」
イントロが始まると
客
「ギャーーー!」
「ギャーーー」
タモル
「は?」
アイドル達も異変に気付く。
一人のアイドル
「フライングベッド〰
ホテルですぐに。
スプリングの硬さを確かめるぅ〰」
センターのアイドル
「このオジサン、変なんです。」
パツパツの衣裳を着て隅でノリノリで踊るオジサン。
タモル
「なんだ君は?」
オジサン
「なんだチミは?
って言った?
なんだチミはってか?」
タモル
「このパターン。」
オジサン
「ただのタクシードライバーです。
いやぁ、
昨日、バッグを拾ってね。
○○ちゃんが卒業なんで一緒に踊ろうかと。」
ガードマン
「確保!」
タモル
「ま、わかるっちゃーわかる。」