骨董屋のオヤジ
「いらっしゃい。」
常連の客
「こんちは、オヤッサン。
どうしたんだい?
難しい顔してるけど、」
オヤジ
「先代から続く店だけに、奥の方には、まだ開けたことのない箱があってね。
今、引っ張り出してきたんだが、」
誇りだらけの小箱を机に置く。
客「価値がありそうだね。」
オヤジ
「そこなんだよ。
変なモノが出てきたんだ。」
客
「ここに
変じゃないモノ
があるほうが驚きだけどな。」
オヤジ
「まあな。
ミガワリ地蔵なんてのも売ったっけな。」
(クーカーの小説 テンイチの公一に出てくる。)
客
「本当に骨董か、まがい物かわからないからな。」
オヤジ
「うちは、目利きの骨董屋だよ。
ちゃんと価値があるものを置いてるんだよ、半分は。」
客「半分。」
オヤジ
「そんなことよりこれだよ。」
客
「うわっ、話 代えた。
どれどれ、
桐の箱に入って、紙に包まれて、」
オヤジ
「これだよ。昔の双眼鏡だろうかね。」
客
「それにしては薄いかな。
VRゴーグルのような箱形だね。」
オヤジ
「掛けてみていいよ。」
客
「うれしいけど。
オヤッサンも試したんだろ?」
オヤジ
「もちろん。」
客
「どれどれ、えーと、
真っ暗だね。」
オヤジ
「真っ暗? フタとかは無いよ。」
客
「オヤッサンの時はどうだった?」
オヤジ
「掛けてないよ。怖いから。
失明でもしたらかなわんし。」
客
「ちょっと、さっき もちろん試したって、」
オヤジ
「もちろん試さないの もちろん。」
客
「やられた。
おや?遠くに光の点があるね。
万華鏡ほどキレイでもない。」
オヤジ
「え?やっぱり失明するやつ?」
客
「えー!」
素早くそれを外した。
オヤジ
「どう?見えてる?」
客の前で手を振る。
客
「見えてますよ。
にやけてるオヤッサン。」
オヤジ
「なんだ。双眼鏡の故障か。
箱の裏に 透視鏡 って書いてあった。
なんだろね。」
客
「透視っていえば、ほら、壁の向こうが見えるとか、」
オヤジ
「女の服が透けるとか、」
客
「買います!」
オヤジ
「でも壊れてるようだよ?」
客
「このネジがピントじゃないかね?」
グリグリ回してみるが、やっぱり光の点しか見えない。
オヤジ
「たぶんそうだよ、ピントだよ。
50000でいいよ。」
客
「いや、まだ、透けるとこみてないし、
アーーッ!」
オヤジ
「なんだ?
向かいの喫茶店のお姉ちゃんか?
見えたのか?」
客
「いま、流れ星が。」
オヤジ
「それって、
地球が透けてるってこと?」
客
「すごいよ。
でも、欲しいのか、要らないのか
わからなくなってきた。」
オヤジ
「じゃあ、50万で。」
客
「悩み中に 値上げ!
それがまた 悩ましい。
実際に透けてる証明があれば買うけどね。」
オヤジ
「あるよ。
これを作った人。
この眼鏡かけて車に牽かれた。
って書いてある。」
客
「なるほど。
買った。」
終わり。