地元の新聞を借りて読む青年。
テレビ欄には昔のドラマの再放送があって、他に観るものもなく、それをつけていた。
昭和のドラマでヒロインは、
上野 明実。
若い女優だ。
といっても本業は演歌歌手である。
ぎこちない演技ではあるが、清楚でかわいらしい容姿で人気があり、シリーズ化されたドラマだ。
ドラマの内容は途中から見たのでよくわからないが、背景の昭和のモダンな建築は青年の興味をひいた。
彼女の歌う、ドラマのエンディングテーマを聞き流しながら新聞を読みあさっていると、
老舗料亭が火事で消失した記事があった。
そしてチャンネルを変えると夜のニュースでも放送していた。
インタビューでは
もったいない や、
残念だ の声があった。
しかし若者は、特に関心もなく、
すごい火でした。
と自慢気に撮影した動画を見せる。
視聴者提供のテロップと
燃え盛る料亭の動画、
その周りには消防士と
スマホを掲げる野次馬の群れ。
そう考えると隣の女子高生は、建物の歴史に興味を持つこと自体が珍しく思えた。