鉄の園 2 | クーカーの 笑説

クーカーの 笑説

コメディ小説を書いてます。

小説ほど難しくなく
コントほど面白くない
クーカーの笑説
1ページ1分くらいです。
サクサクと読んでくださいませ。

「まぁ覚悟はしていたけど。」
青年はタブレットの写真を見返す。

「いかがですか?」
元鉄道会社の役員だった老人に声をかけられる。

「屋根も柱もしっかりしてますね。
   水道管とガスは引き直しでしょう。
   何でもかんでも壊してリメイクするのは誰にでもできますからね。
    私はこの駅舎を50歳だけ、若返らせますよ。」
青年

「50年前のあの頃。
    戻りたいですよ、私も。」
柱を叩いて答える老人

改札口で改鋏(かいきょう)を
タッタカタッタカ

バチッ

タッタカタッタカ
とリズミカルに鳴らしては、硬い切符の硬券(こうけん)を切っていた頃を懐かしむ老人。

「本当にあなたで良かった。
    実は私はあまり乗り気ではなかったんですよ。
   確かに廃線の駅舎なんか残しておいても無意味ですよ。
   耐震工事もしていない老朽化した建物ですからね。
  子供でも潜り混んで事故でも起きたら・・・」

「わかります。
   耐震工事は柱の中を補強する工法の特許がうちにはあります。
   柱の傷さえ残りますよ。」

「そうですか、それはありがたい。
   あの木のベンチ、すっかり尻の形にすり減ったようで、実に座りごごちが良いんですよ。」

≪キュリキュリ≫
ネジ式の棒の鍵を回しながら青年に教える。
駅舎の木戸を開けると、こもっていた空気といちょうの匂いがブレンドされて、なんとも懐かしい落ち着いた空気を嗅いだ。

駅事務所から合板のドアを潜ると待合室に出られた。

外から見たのとはまた違って、レトロを感じる。

残念なのは天井の格子(こうし)などの飾りが蜘蛛の巣に隠れていたことか。

「あらら、蜘蛛が悪さして。
    あっちは燕の巣が列になってますな。
   昔は見事な天井でしたよ。」
老人は近くの蜘蛛の巣を払いながら言う。

「そうでしょうね。
   では、これから調査にかかります。
   水道屋さんと電気屋さんガス屋さん、産廃屋さんも後から来ますから、見積りは一週間くらいみていただけますか?」
青年

「はい、市長にも伝えておきます。」
老人

エイジング加工なんて塗装で錆を表現したり、塗装剥がれをしてアンティークに見せるDIYが流行っているが、この天然の錆には香りがある。

朽ちた板塀も、固くなったゴムホースもモノとして寿命を全うした気迫さえ感じる。

これを見るとDIYの加工は若い役者が年寄りメイクをしたようで素っ気なく思えた。

鉄の事務机に積もったホコリが舞う。
壁かけの扇風機もお辞儀をして彼を迎えた。