そう言うとバスから降りてゲートを開ける犯人。
バスが整備工場を出る。
犯人は足を引きずりバスに乗り込むと包丁で行き先を指した。
「あの酔っぱらい、
今度会ったらただじゃおかねぇ。
大通りは避けろ。
裏道で行くんだ。」
「はい。」
運転手はバスの巨体を細道に滑り込ませる。
犯人が焦る理由がわかった。
大通りで検問が始まっている。
このまま行くと、あのお寺だ。
そしてお寺の下に来るとバスを止めさせた。
犯人はバスの降り口から半身を出すと石段を見上げた。
「あの野郎、居ないようだな。」
(居たら殺されてた。
クソ坊主に感謝します。)
荒俣は通路に顔を出して前方の犯人の後ろ姿を見ている。
すると、フロントガラスの外に、歩道をお寺に歩いてくる若い女性がいた。
(あ、あの子。知ってる気がする。)
そして彼女と二人でバスに轢かれる映像が頭に浮かぶ。
(はっ!
なんだ今のリアルなシーンは、予知夢みたいなものか。
だとしたら、俺はここで‥‥)
「もういい、出せ。」
降り口を閉めてバスが走り出す。
(ここを離れるようだ。
よかった。予知夢ならハズレだ。)
変な汗をかき、心臓がバクバクしている荒俣。