回送の表示で乗客がいるのはおかしい。
男はカーテンを閉めさせた。
乗客は自分の横のカーテンを閉めたが、人がいない後部座席は女子高生の二人が任命され、閉めに来た。
女子高生は椅子の隙間に挟まっている荒俣を見つけたが、
すぐに荒俣にシーっとポーズをされ、頷いた。
この人に賭けることにしたようだ。
かといって何の作戦もない荒俣。
下手に動かない。
それが今は利口だろう。
カバンの中をあさってタブレット端末を見つけた。
メールができるはずだ。
いや、これは起動時に音がしてしまうのだ。
静かな車内で、他のケータイは電源を切られている。
存在がバレてしまう。
≪ゥワァン、ゥワァン、ゥワァゥ≫
サイレンを鳴らしたパトカーとすれ違う。
回送バスには目もくれない。
カーテンの隙間からパトカーを覗いて笑う男。
このまま走る訳にいかなくなった。
もう1台のコミュニティーバスに追い付いてしまうからだ。
2台のバスは30分置きに発車し、循環している。
「止めろ。」
運転手に言う。
バス停でもない路上でハザードを出して停める。
「あ、あのう、トイレに」
おばさんの1人。
「交代で行かせてやる。
そっちのおばさんはここに座れ。」
そのおばさんはイケメンの隣に座る。
「行ってらっしゃい。」
手を振る余裕があるようだ。
バスを降りて公衆トイレに向かうおばさん。
5分ごとにおばさんが交代して済ませた。
女子高生も交代にトイレに行った。
「あ、僕もトイレ休憩。」
サラリーマンが手を上げる。
あのアホなサラリーマンとセットなら荒俣もトイレに行けたのだが。
「ぅおぅ、連れション現象か。
ここは我慢するしかない。」
荒俣はうずくまる。