バスジャックかよ。」
椅子と椅子の隙間に潜り込んだ。
ケータイを7台(運転手のも合わせて)回収する男。
荒俣は死んでるケータイを取り出し、電源を入れようとする。
(動いてくれ。)
バスが発車させられた。
行き先は回送に変えさせる。
「このまま走り続けろ。」
男は運転手の後ろの席に座る。
「どこへ、行けば。」
運転手
「なるべく大通りで県外へ行け。
飛ばしたりするなよ。
普通に回送バスだと思え。」
男は座ったまま指示を出す。
「はい。わかりました。」
運転手は背筋を伸ばす。
(運転手、飛ばせ。早く知らせろ。)
荒俣が祈る。
「すいません。会社に遅れるんで下ろして下さい。」
サラリーマン
「は?
会社の住所どこよ。
死体で郵送してやるから。」
「え!」
「黙って座ってろ。」
(馬鹿なのか?彼は。
そういや俺も遅刻だな。
連絡もできない。)
荒俣は無遅刻無欠勤だけが取り柄だったのだ。
ケータイのバッテリーを外してハンカチで拭いたり、息で吹いたりしてみる。
水没のマークがにじんでいた。
(ケータイが川くせぇ。)