途中ですれ違い、彼女は会釈した。
荒俣は会釈を返した。
(どこがで会ったことあるぞ。
最近のようだが。
会社かなぁ、思い出せない。)
道路に出て、バス停の表を読む。
まだ時間がある。
道の向かいに商店がある。
「バス代はとってあるし余裕も少しある。
昼間っから缶ビールでもいってみるか。」
アルコールは弱いので気分だけでよい。
小さめの缶ビールを買った。
バス停のベンチに座り一口。
「うー、苦い。」
内ポケットから顔を出す遺書の封筒を押し込んでニヤリと笑う。
こんな昼間から酒のんで、呑気なサラリーマンだが、もし事故で死んだら、
やけになって自殺したとしか思われない。
それを想像すると可笑しくなった。
≪カコーン、カランカラン≫
缶が地面に落ちる音で寝ていたことに気づいた。
隣に女性が立っていて、すぐに尻をずらした。
「ごめんなさい。どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
女性が座って、白い紙袋から御守りを出して眺めている。
荒俣は頭を掻いた。
「あれ、何これ?」
デジャブだ。
「あ、これは交通安全の御守りです。」
女性が答えた。
何これ?に対してだが、荒俣はそれを聞いた訳ではなかった。
「そう、御守りなんですよ。
貴女、前にも買ってません?ここで。」
と言っている荒俣もさまよってここに来たので初めてなのだが。
「いえ、母に聞いて買いに来たので。」
「そうですか。
ごめんね酔っぱらいのおじさんで。」
(俺は何を言ってるんだ?)
「ここの御守りはすごいそうです。
必ず守ってくれる環境になるって、母が。」
「そうなんですか。
また今度来たら買ってみます。」
(財布を持って。)