男の横の席に座らされた。
男の腕を払い、逃げようとした。
「大丈夫、俺も日本人だから。」
男は周りを伺いながらこっちを見ずにボソッと言った。
敵陣で仲間に会えるとは。
安心して心を開こうとした。
しかし見た目は周りの中国人と変わらない。
日本語のできる中国人かもしれない。
「驚かせてしまったが、おじさんがあまりにも無警戒だったもんで。」
男はこちらを向いたが目を合わさずに独り言のように話す。
俺をおじさんと呼ぶだけあって若い男だ。
迷彩服がだぶつくほど細い、そして生っ白い。
かといって病気にも思えない。
十年前なら引きこもりと呼ばれるような若者だ。
俺も独り言のように話すべきだろう。
「すっかり警戒心が薄れていた。ありがとう。助かった。」
「全く、そんな格好でよくここにいるよ。
あのまま兵士に接触したら…」
「あぁ…そうだな。…すまない。」
「とにかく、これを羽織ってなよ。」
「あ、ありがとうございます。」
若者が迷彩柄のカッパを貸してくれた。
カッパを着る。
「おじさんは何しに来たの?」
「敵の様子を探りに」
「俺と同じか。
とにかく情報が本当か確かめにきたんだろ?」
「え?
情報が無いから来たんだよ。
これは戦争なのか?」
「おじさん、ここを出て話そう。」
「ああ、わかった。」
ポーチをあの兵士のベンチの下に投げてから外に出た。