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『親会社の機体か、シミュレーションの通りにやれば問題ない。』
『厄介なことに左エンジンが火を吹いているらしい』
『どうだ《Pーー。》
燃料はもちそうか?』
『いや、もたないかも知れない。
だが全速力で向かう。』
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《Pーー》
という音に客席のほぼ全員がクルーの席に視線を向けた。
「名前を呼んだからね。
音をかぶせてる。
問題ないだろ?」
パイロットは静かに言う。
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『低空では燃料を使う。
成層圏へ』
『わかった。マスクを』
『みんな、マスクを!』
『ラジャ』『ラジャ』
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誰が話しているかはわからない。
ただ、ハグワンの操縦席の後方からの俯瞰カメラの映像が写されている。
画面の下の方で、クルーの頭が映る。
その幾つかの頭が酸素マスクを装置し終えると、風防のガラスから見える景色が暗くなっていった。
闇と無音の世界
レーダーの音しか聞こえてこない。
数分は、このままだ。
クルーの何人かが、パイプ椅子に反り返って腕を頭の後ろに組む
「早送りできますけど」
クルーの一人がリモコンを掲げる。
「いや、結構」
記者は一瞬たりとも目を離さない覚悟でペンを握り直した。
「いや、ご苦労様。」
そのクルーは、奥からダンボール箱を運んできた。
「あと43分は、このままさ。」
笑いながら、ペットボトルの水を差し出した。
記者は下を向いた。