岡部さんは行ってしまった。
マツさんが、亡くなったとは。
生前に書いたというマツさんの手紙は二通目だ。
親展
小野寺殿
少し変色の始まった封筒を持ち、地下室に戻った。
無音の地下室で手紙を見る。
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小野寺殿と宛名を書いたが、
小野田君、君が手紙を読んでいることを祈る。
まず、君にお礼を言いたい。
ホワイトボードに書いた通り、目的を達成できた。
君の不思議な体験を元に研究を進め、空気の実験を成功させ、ついに別れを言えた。
このことを大変感謝している。
ありがとう。
「タイムワープのことは伏せて書いてある。
ここの住所がバレた以上、地下室が見つかるとまずいからだろう。
奥さんに会えて良かった。」
本当なら、私が君と会って礼を言いたいのだが、叶わない。
ちょっと困ったことに、元の時代に帰るボンベから空気が漏れてしまったのだ。
ミイラ取りの話をしたが、死を見送りにきて、私もここで幕を閉じることになった。
どうやら実験で肺に負担をかけたようで、肺をわずらった。
各実験の滞在は2日を限度にしたが、これは肺を慣らさないと差異ができず、戻れないからであるが、三回の実験の往復と今回で計七回も肺をいじめたのが原因だ。
こんなかたちで君にお別れを告げることになってすまない。
最後に頼まれて欲しい。
まず、ホワイトボードをすべて消してほしい。
床板の下に各年代のボンベを隠してある。
それもすべて放出し破棄してほしい。
この小屋の存在を岡部君に伝えて処分をお願いしたい。
この実験で分かった。
人生は流れることに意味があったのだ。
戻れないこと。
進むしかないこと。
私は罰があたったようだ。
では小野田君
楽しい人生だった。
ありがとう。
さようなら。
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