いつか見た景色を追ってる。

手には、厚めの切符
すこし現実を離れて
カタンカタンと心地よく
列車は進んでいるようだ。

ここは現実から放たれていて
飲んだくれの男が一人いる

私であって自分ではない
いま見てる場面さえ、すぐに移る
もう夢なのだろう。

置いていかれたって
追われていたって

僕は連結部で遊んでる子どもであるかのよう



ほら、ゆり揺られ
列車は宙にさえ登る。

こんな思いは、いつぶりなんだろう?
旅連れさえなにもいらない


そういった感じを愉しんでたら、
隣に女の子がいつからか座っていた…

こだわらずに話していて気づいた。
小学生の頃に好きだった女の子だ
大人しくて話すような子ではなかった

それからすこし気後れして仕舞い

目を女の子の手もとに落とすと

懐かしい、缶の菓子箱を持っている…
小人たちが木々の枝葉で遊んでいる絵柄だ


『これ僕のと同じだ』
いつも眺めていて飽きなかった箱と同じだ


幼少期から母は、忙しく病がちだった
なかなか構っては貰えず、この箱に描かれた
色や柄が楽しくて僕は飽きずに観ていた


驚いて目を上げると、
女の子はずっと笑顔を向けてくれている。

僕はいつから自分がどう思われてるか
気にし出したのだろう…
記憶の中の女の子は

喜色を表すような子ではなかったのに


クリアに像を結ぶ今
小さな手指と細い腕、まるで人形のような
筆で描いたような小さな面立ちだった

こんな優しげに笑う女の子の表情に触れて

気が和らぐのと恥じ入る気持ちに
とても動揺を覚えた



―― 僕は女の子の名をすごく呼びたくなった ――


でもそれをしたら
今の穏やかさの均衡が、崩れる気がした…


ふと女の子は顔を逸らしてくれた。

そしてスッと列車の窓を開けた


カタンカタンと揺られる車窓に
鴇色と言うのだろうか?
鮮やかな色彩の空と星が輝いていた


心地がよい風が入ってくる

女の子の髪がふわっと触れた ――


どんな感触かさえ判らない
ここは夢の中なんだよな…

そして女の子は

この上なく気分が好さそうに
にこやかに空を見つめている。


僕は女の子というものに、

この特別な空気を纏った
少女に長い時間
見入ってしまっていた

いつか見た、祝福された場所にいた
唯一人の少女を見つめている自分がいた。


楽しそうで、幸福を分け与えてくれてる様で
僕は輪の外で見ていたけれど

あの時、笑顔を向けてくれた
好きだった表情に包まれていた ――


[[ 切符を拝見しまぁすぅ ]]
人じゃない何かが来た。
なんだろう? この毛むくじゃら、
姿がよく分からないな?

『 あれ !? 』
女の子は切符を持っていない。
「 僕のを使うといいよ 」と渡す…

おそらく、この乗車券は
彼女のモノだと思った


次の駅に着き、
僕は女の子に別れを告げて降車した。


遊んでくれてありがとう

まだ子供でいられた二人は
光を帯びていた ――


駅舎で飲んだくれの人が
足りない料金を、ちゃんと払ってる

私は自分の姿に畏怖を残したまま
歩き始めた。


彼女がいつまでも、幸せのなかに
居て欲しいと願いながら