黒澤明監督の自伝である「蝦蟇の油」を読みました。

 

 


気になったのは、黒沢家に三人生まれた男児のうち、長男と次男が若くして死んでいることです。長男は失踪後に病死が伝えられ、次男は自殺でした。三番目の男児である明だけが長命でした。

このことはやや異常ではないかと思います。そして、この事実は、黒澤明の父が厳格な軍人であったことと関係があったように思われます。

おそらく軍人の父は、男児を厳しく躾けたに違いありません。それが度を超していたために長男は失踪、次男は20才台で自殺という結果になったようです。三番目だった明は、運が良かったのでしょう。父親の厳格さが年齢とともに減じていたために被害が少なかったのだろうと想像できます。

黒澤明監督は、撮影中、時としてスタッフやキャストをしごくことで知られていました。こういうところは父親の影響だったようです。




日本の親のダメなところは、家庭に職業を持ち込んでしまうことでしょう。家庭内では親は親であれば十分なのに、そうしないどころか、家庭内で軍人になったり、警察官になったり、裁判官になったり、教師になったり、監督になったり、つまり、親以外の何者かになってしまうようです。

むろん親は子のためを思うあまりに余計な考えを起こしてしまうのでしょうが、それにしても愚劣なことです。親でさえあれば良いだけなのに、なぜ、親以外の者になろうとするのでしょうか。

武田信玄の得道歌にこんなのがあります。

人多き、人の中にぞ、人ぞなき。人となせ人、人となれ人。

これにアレンジを加えるとこうなるでしょう。

親多き、親の中にぞ、親ぞなき。親となせ親、親となれ親。