アリス・ミラー著「魂の殺人」を読んでいます。

著者は精神分析家です。1983年に出版された本ですから古いものです。精神分析の古典と言えるでしょうか。

この本のなかで、著者は「闇教育」という古い本の内容を紹介しています。これは1748年に出版されたものです。

「闇教育」とは、子供から意思を奪い去り、なんでも大人の言うことを聞く従順な子供に育てることです。

そのためには、体罰も暴言もなんでもありです。折檻という言葉が使われています。鞭、棒などが使われたようです。また、「闇教育」は生まれたばかりの赤ちゃんでさえ、その対象とされており、甘やかすことや、わがままを許すことは悪とされていたようです。

以下、若干、引用してみます。

「あなたの視線ひとつ、ことばひとつ、ほんのわずかな叱責の身振りひとつで子供を思うままに動かせるようになるのだ。こうすることが子供自身にも一番よいことなのである。・・・間もなくうるわしい親子の関係が生じて両親は報われる」

「なによりもまず、わがままと悪心の一掃に専念し、目的を達するまでそれをやめないように。幼い子供たちに事の理非をわけて説いて聞かせても無駄であるから、子供のわがままを一掃するのにも一種機械的なやり方をする以外ない。一度でもわがままを許すと、二度目には子供はもっと強気になり、わがままを直すことは難しくなる」

「鞭を以てわがままを追い払うことに成功すれば、その子供は従順、温順そして善良な子供となり、以後、立派な教育をほどこすことができる」

「二才か三才になるかならずのうちにおこなわねばならぬもうひとつの大切な教育は、両親および上長に対する絶対の服従と、なんでもこどもらしく一所懸命にやり、不満を持たないことの習得である」

「両親に服従することに慣れている子供は、自立した後も、法と規則に服することを喜ぶものであるが、それは自分の意思に従っては行動しないということに慣れているからである。服従は重要である」

「まだ幼く扱いやすい子供の心からわがままを追い払ったら、今度は全力をあげて服従を習得させねばならない」

「魂が自分の意思を持とうとするのはまったく自然のことで、したがって生後二年の間にうまくやってしまわなければ、そのあとからではとても目的を達することはできない。生後すぐの時期は、力や強制を自由に使えるという点でたいへん都合の良い時期である」

「子供たちは、自分が赤ん坊だった頃にあったことをみな忘れてしまう」

「子供から意思を奪ってしまえば、その子供は、その後、自分に意思があったことなど決して思い出さない」

「従順とは、子供が大人に命令されたことを喜んで果たし、禁止されたことを素直に止め、大人が子供のために決めた定めに喜んで従うことである」

なんとも恐ろしいことが書かれています。しかし、こうした「闇教育」が正しいと信じていた教育家が数多く歴史的に存在していたということです。そして、いまなおいるようです。

こうした系譜があるからこそ、「スポック博士の育児書」のような悪書が現れるのでしょう。

さらに引用します。

「あなたの息子が、あなたに逆らうために泣いたり、あなたを怒らせるために悪さをする、つまり強情をはっているのであれば、そのときは、殴れ、悲鳴をあげるまで」

「不服従はあなたに対する宣戦布告と同じである。あなたの息子は、あなたから支配権を奪おうとしているのだ」

「折檻する場合には手加減せず、息子に、あなたこそ主人なのだということを思い知らせなければならない」

どうやら、「闇教育」の理論の背景には、親子関係を支配被支配の関係で考えるという価値観があるようです。子供を敵として見ているのです。基本的な親子観が歪んでいます。師弟観も狂っています。

アリス・ミラーは、「闇教育」の諸相を次のようにまとめています。

1.大人は子供の支配者であって、召使いではない。
2.大人は神のごとく善悪を決める。
3.大人の怒りは、その大人の心中の葛藤から生まれるのだが、大人はそれを子供のせいにする。
4.両親は常に庇護され、保護されねばならない。
5.子供に活き活きとした感情が息づいていると、大人の支配に都合が悪い。
6.できるだけはやく子供の意思を奪うことが必要である。
7.幼い頃にやってしまえば、子供は何一つ気づかない。

恐ろしいですね。要するに「闇教育」を実践する親こそが毒親です。

さらに、余談ながら書くと、アメリカによる日本支配はまさに「闇教育」ですね。