入江隆則著「敗者の戦後」を読みました。
これは興味深い内容の歴史エッセイです。歴史に現れた三つの戦後を比較することによって日本の戦後というものの特徴を浮かび上がらせています。三つの戦後とは次のとおりです。
①ナポレオン戦争後のフランス
②第一次世界大戦後のドイツ
③第二次世界大戦後の日本
①の場合は、戦勝国も敗戦国フランスも貴族的な儀礼を保っていて、フランスはそれほどひどい制裁を受けませんでした。クラウゼビッツのいうとおり、戦争は政治の延長であることを戦勝国も戦敗国も知っていた。だから、戦争が終わった途端に政治に戻ったわけです。最も文明的だった戦後です。
②の場合、戦勝国の指導者は国民世論を無視できず、憎悪感情にまかせて敗戦国ドイツに強烈な制裁を課しました。これは戦争が戦後も継続した例です。ドイツこそ悲惨でした。ドイツは天文学的なインフレに襲われて生活が根底から乱れてしまいました。ここにヒトラー台頭の素地ができたわけです。
③の場合、②よりは抑制されていたとはいえ戦勝国は横暴でした。戦後もなお戦争を継続したのです。国際法規を無視して政体を改変しましたし、日本人を洗脳しました。一番の特徴は日本人に対して徹底した情報操作を実施して洗脳したことです。この洗脳に対する弱さが日本人の特徴として浮かび上がり、今日の日本の諸問題へとつながっています。
ナポレオンは最終的に敗れたとはいえ、欧州に民主主義の種子をまき、世界の民主化を促進しました。日本も最終的に敗れたとはいえ、アジアに自主独立の種子をまき、アジアの自立を促進しました。いずれも世界史的な出来事だったと言えます。
また、戦勝国は必ずしも幸福にならないようです。カルタゴを滅ぼしたローマは、そののち腐敗堕落して自滅していきましたし、アメリカも第二次大戦後は弱小国家との戦争に負けたりするようになりました。
著者は最後に、「敗戦を予想してもなお戦わねばならないときがある」と結論しています。
「負けるに決まっていても戦った方が良い場合の適切な例をあげることは難しいが、(略)兄と弟のケーキの奪い合いの例でいえば、喧嘩をすれば必ず負けるとわかっていても、弟が兄に向かって捨て身で突進していった方が政治的には良い場合もある。その後の兄の態度が変わるかも知れないからである」
優れた歴史エッセイだと思いました。