ミアシャイマー著『なぜリーダーはウソをつくのか』を読みました。興味深い内容でしたので、自分なりに要約しておきたいと思います。まずは用語を並べてみましょう。

真実の供述 truth telling
騙し deception
・ウソをつく lying
・印象操作 spinning
・秘匿 concealment

この本は、政治リーダーが国益のためにウソをついたり、印象操作をしたり、秘匿をしたりする、その実例を分析しています。そして、その対象は敵対国であると共に自国民でもあります。

それにしても、この用語をみると、まるでマスコミのことを論じているかのようです。マスコミは一定の政治勢力に操られてウソをついたり、印象操作をしたり、秘匿したりします。意外ですが、政治リーダーとマスコミはよく似ているということになります。

さて、政治リーダーのウソに戻ります。ミアシャイマーはリーダーのウソには7種類があるとしています。

国家間のウソ inter-state lies
恐怖の煽動 fearmongering
戦略的隠蔽 strategic cover-ups
ナショナリスト的神話づくり nationalist mithmaking
リベラル的ウソ liberal lies
社会帝国主義 social imperialism
無能の隠蔽 ignoble cover-ups

ミアシャイマーは、政治リーダーのウソが国益にかなう限り、そのウソは許容されるとしています。しかし、上記のうち社会帝国主義と無能の隠蔽は、いかなる場合にも国益に適うことはないとして分析の対象外としました。

社会帝国主義とは、社会主義国でよく使われるもので、国内の一部の階層や集団を悪者に仕立てて逮捕し、拘束し、収用し、それ以外の国民の結束を図ろうとするものです。スターリンの粛正や毛沢東の文化大革命を想像すればよいでしょう。習近平は今もなお実施しているようです。

そして、無能の隠蔽とは、政治リーダーが失敗を隠すことです。鳩山由紀夫や菅直人や朴槿恵の無能は歴然としていますが、やはり一生懸命かくそうとしています。安倍政権は消費増税をしてしまったためにデフレを長引かせていますが、「もはやデフレではないと言える状態になった」などと苦しい言い回しで誤魔化そうとしています。

このふたつのウソは国益に適わないとミアシャイマーは指摘していますが、実際には多用されているようです。

①国家間のウソ
 国家間のウソは意外にも少ない、というのがミアシャイマーの結論です。政治家や外交官はウソを言いまくっているわけではないのです。そもそもウソをついてもバレてしまえば効果がないし、欺すことは難しいのです。たとえば日本政府がアメリカ政府を欺せるでしょうか。無理です。だから欺しようがない。また、アメリカは日本を欺せるとしても、常にウソをつきまくっていたら日本政府がアメリカ政府そのものを信用しなくなります。これではいざというときにウソが効きません。だから、政治家も外交官も、国家間のウソは希にしか使わないようです。
 しかし、やはりウソは使われます。第二次大戦前、ヒトラーはドイツ軍を実態以上に強いと盛んに宣伝しました。スターリンの粛清で弱体化していたソビエト軍は、その実態を知られないため盛んにソ連軍の強勢を誇りました。結果、日本陸軍はソ連軍を過剰評価したところがあります。ソ連首相フルシチョフはソ連のICBM技術の優秀性を実態以上に誇張しました。これを信じたアメリカはいわゆるミサイル・ギャップに三年ものあいだ悩まされたのです。またイスラエルは、アメリカを騙しながら独自に核兵器を開発しました。アメリカは結構だまされています。同時に騙しもしました。もしソ連軍が西ヨーロッパに侵攻したらアメリカは核兵器を使ってでも守ると明言していましたが、後に、これはウソだったとキッシンジャーは告白しました。核の傘は西欧になかったわけです。またギリシアはEU加盟のために自国の債務を過小に評価するというウソをつきました。

②恐怖の煽動
 脅威の存在を国民に知らせるため、政治リーダーは脅威を煽動する。アメリカ大統領は、グリア号事件、トンキン湾事件などで明らかなウソをつき、国家を戦争へと導びこうとした。グリア号事件による対独開戦はかなわなかったが、トンキン湾事件ではベトナム戦争への道が開けた。また、イラク戦争を始めるに際してブッシュ大統領、チェイニー副大統領、ラムズフェルト国務長官、パウエル参謀総長らは「イラクは大量破壊兵器を持っている」というウソを繰り返し発言した。
 確かな証拠がなくても、政治リーダーは、そのようにほのめかすことによって国民に脅威存在していると思い込ませることが可能である。

③戦略的隠蔽
 政策の失敗や無能、政策の非道徳性などを自国民及び他国に対して隠すこと。第一次大戦時、ベルダンの戦いを指揮したフランス軍のジョフル元帥は無能だった。しかし、フランス政府はこの事実を隠し、また敵国のドイツも無能なジョフル元帥が指揮を執り続けることを望み、ジョフル元帥の無能を暴くような報道をしなかった。独仏の国益によって無能なジョフル元帥は有能であるかのように印象づけられた。こうした隠蔽は、国民は無能であるという前提によって正当化される。日本政府が核搭載アメリカ艦船の入港を秘密裏に許可したこともこれにあたる。

④ナショナリスト的な神話
 国民国家の時代、国家は様々な神話を作り上げて国威を発揚します。戦前の日本にはいくつもの軍神物語がありました。清教徒がやってきて云々というアメリカの建国神話もそうです。第二次世界大戦後に成立した中国、韓国、北朝鮮、ロシアなどは自分勝手な(噴飯物の)建国神話を作り上げ、それを国民に信じ込ませています。その反動が反日、侮日的プロパガンダとなって日本を襲っているわけです。 
 国民の結束を強めるためにこうした神話が必要になるようです。欧州諸国では植民地支配を反省するどころか、その肯定的側面を学校教育で教えています。国民が国家を誇りに思わなければ結束できないからです。それを考えると日本の自虐教育の異常さがよくわかります。日本政府は日本という国家を解体しようとしているわけです。
 ドイツが、すべての罪をナチスに負わせ、ドイツ国民は悪くないと言い訳しているのも一種の神話です。軍国主義だけが悪かったとする戦後日本の極東裁判史観も同様です。
 これらすべては神話であり、フィクションです。基本的に自己欺瞞です。それでも、それを信じている人々には強い影響力を発揮します。そして、それは他者悪意を生みもします。中韓の執拗な反日プロパガンダもそれです。中華人民共和国や大韓民国には建国の正当性を裏付ける歴史がありません。だから捏造するほかはないのです。この点、日本はつくられた国ではなく、生まれた国ですから古来からの建国神話があり、安心して良いのですが、あまりにも安心しすぎている点が心配の種と言えるでしょう。

⑥リベラル的な嘘
 まず、自由主義(リベラル)の価値観が世界の価値観になってしまっているという現状が前提にあります。国際法や国連の価値基準はリベラルです。これが国家の行動を拘束します。だから、各国はウソをついて「我が国はリベラルに行動している」と言い張ります。中華人民共和国政府が何かと言えば「自由と民主主義」という理由はここにあります。どうして「共産主義」と言わないのか不思議ですが、世界の価値観がリベラルですから、これに合わせているわけです。
 笑うべきことですが、第二次大戦中、米英は同盟国ソ連のイメージを良くするため「ジョーおじさん」と言う綽名をつけて頻りに宣伝していました。世界最大級の大量虐殺独裁者のスターリンが「ジョーおじさん」にされていたのです。何たる大嘘でしょう。また、英米は、カチンの森事件の真相を懸命に隠しもしました。
 

 政治リーダーがウソをつく理由、それは世界が弱肉強食のホッブス的世界だからである。政治リーダーは国家存続のためありとあらゆることを実施することが許されているのである。しかし、このウソにもリスクがある。ウソがバレた場合の反作用である。
 政府がウソを多用すれば、社会全体が疑心暗鬼になり、国内が混乱してしまう。しかし、政治リーダーは、たとえウソがバレても恥をかく程度のダメージしか被らない。ただし、政権が終わるような致命傷を負うこともある。