舞台劇を観るに当たって
予習などしないタチなので
理解し得るまで時間がかかってしまう。
今回観た『出口なし』も同様である。

普通、朗読劇とは言葉が絶え間なく飛び交い
その意味を消化する前に話が進み
おいてけぼりになって
意味不明意のまま終わってしまう事が多い。
まぁ、これはあくまで私個人の見解だが…

しかし、この劇はなぜか引き込まれる。
イメージし易いのように
言葉が組み立てられている。

さらに、客席の笑いさえとっているのだ。

出口なし01
舞台上には三種類のソファーが置かれて
その奥にはどっしりとした大きな扉(入口)がある。
傍らには電気スタンドとブロンズ像が。

まるでホテルの一室のような感じがする。
やがてボーイに案内された
男ガルサン(段田安則さん)がやって来た。
彼の言葉でこの部屋には窓がなく
なぜかブロンズ像のところに
ペーパーナイフが置かれていることを知る。

そして「拷問器具はどこにある?」と言う
意味不明な事をボーイに問うた。

ボーイは何食わぬ顔で
「そんな物はここにはありませんよ」
と言い、いそいそと部屋を掃除している。
自らの姿を写し出す鏡すらないらしい。

次にボーイに案内されたのは
イネス(大竹しのぶさん)と言う女性だった。
彼女はガルサンの姿に一瞬怯えたが
拷問人でないと知ると安心したようだ。

最後に導かれたのは
エステル(多部未華子ちゃん)と言う
若い夫人だった。

エステルが加わったことで
やっと分かったことがあった。

彼女たち三人は既に死んでいて
その罪過ゆえ地獄に堕ちたのだ。
と言っても我々の地獄感とは全く違っている。

まずもって、地獄が天上にあるのだ。

そして身体的苦痛を与える拷問は行われず
時折、下の世界(現世)が目前に見えるようだ。
つまり地獄の責め苦と精神的なものらしい。

さて彼女たちはなぜ地獄に堕ちる
罪悪を犯したのだろうか。

ガルサンは妻が居ながら
自宅に女を連れ込み
妻を追い詰めることで自らを保っていた。
最初、彼はジャーナリストで反戦主義者だ
と言い張っていたが
実のところ徴兵が嫌で逃走した臆病者だった。
その結果、捕まって銃殺された。

イネスは郵便局員で同性愛者だった。
甥と女友達(恋人)の三人で暮らしていたが
甥が目障りになり
精神的追い込んで列車自殺させた。
そのことがきっかけか
恋人がガス栓開き心中した。

エステルの死因は肺炎だが
三人の中で一番惨虐で罪深だろう。
彼女は裕福に憧れ
自分の歳の三倍も歳上の男と結婚していた。
しかし若い男と浮気をし子供まで作ったしまったが
その恋人が貧乏と知るや
男の前で嬰児を殺害した。
そのショックで男は自殺した。
だが、そんなことなど罪だとは
これっぽっちも思っていない。
むしろ自分自身の欲望が満たされないことを
不満に思っている。

最初は互いに干渉しないと言いながら
それぞれのことが気になって行く
そしてこの三人が互いの拷問人となるのである。
エステルはイネスを
イネスはガルサンを
ガルサンはエステルをと
三つ巴の関係がお互いを繋縛していく。

例え扉が開いても
その繋縛の糸を断ち切ることはできず
一人で部屋から出ることすらできない。
既に死んでいるので
殺すことも死ぬこともできない
出口のない無限の地獄である。

9月30日の大千穐楽は
台風24号が接近していることもあり
休演になるのか心配だったが
通常通り上演するとのこと。

ただ、台風の接近と交通機関の関係から
観劇を断念せざる得ない方々に配慮して
チケットを払い戻すこととなった。

幸い私はなんとか当日、観に行けた。

会場はさすがに空席が目立つ。
半分以上空いている。
1/3か、それ以下の客入りである。


この日のカーテンコールでは
この様な状況の中わざわざ
自分たちの舞台を観に来てくれたことを
出演者たちが感激されたらしく
段田安則さんから特別にと
出演者の紹介があった。

最初はボーイ役の本多遼さん。
次にエステル役の多部未華子さん。

多部さんが舞台前方に進みお辞儀すると
段田さんが「観客の皆様に一言」と促された。

少し慌てて非常に小さな声で
「本多さんは?」と言いかけて話し出した。
しかし、演劇の時とは全く違って、声が小さく
マイクもない。

観客から
「聞こえませ~ん」
という声なき声が聞こえそうな雰囲気が…。

それでもモソモソっと
「今日(台風が来る)は記憶に残る
 経験をさせていただきました。
 ありがとうございました」
そう言って段田さんの方を向けば
「もう一言」的雰囲気。

何を話していいか
いつもの調子で散々迷って挙句言った言葉が
「(雨で)滑らないように気を付けてください」
だった。
そして、素で照れた仕草をしていました。

段田さんも予想以上に
観に来てくれた事を
非常に感謝されていました。

大竹しのぶさんも
この劇では散々苦労されたみたいで
「役者として毎日
 地獄の苦しみを味わっています。
 こんな舞台の後なんですが、
 皆さまお幸せに」
と感謝されていました。