「東京」という場所は、たくさんの色を持っています。
繁華街にきらめくネオンであったり、東京湾に沈む太陽の黄金であったり、それを無情にも見過ごす紫紺の夕空であったり…。東京にはたくさん色がありすぎて、私はどの色を愛でればよいのか分からない。飽和した色彩の数々は、むしろ日常をモノトーンにしてしまう。そういったパラドックスが東京には息づいているのです






はじめに

僕が以前1年だけ在籍していた、立教大学作詞作曲部OPUS
今回紹介させていただくのは、すでに引退をしてしまってはいますが、そのOPUSの現3年4年生達で結成されたthe Naked
Notesの『Colors』というアルバムです。
7曲入りで500円。別3曲が収録されたものも同額で売られているので2枚で1000円。最初に言っておきますが、この値段で手に入るのが申し訳なくなるくらいのクオリティーであると宣言させていただきます。(当方は帰りの電車賃がなくなってしまいそうであったため1枚しか買えませんでしたが泣)

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メンバーは以下の通りです。
Vo. Junna
Gt. Kento
Gt. Ryo
Ba. kidokoro
Dr. TK



○音楽性

音楽的な特徴を説明させていただくと、一言で言うのなら
「戦闘力の高いバンド」です。
鉄壁のTKとkidokoroのリズム隊。自由に歌い上げるボーカルの地盤を、躍動的でありながらもがっしりしたビートで固めてくれています。そしてメジャーバンドと比較してみても稀有な特徴であるのがリードギター二人の存在です。どちらかというとKentoがリードを多く担っているように思われますが、掛け合いやユニゾンなどリード二本ならではのギターアプローチがみられる点は聴きどころのひとつでもあります。自由で叙情感あふれるRyoと緻密で技巧派のKentoという一対は、「なんて贅沢なんだ…」と思わざるをえません。そして特に目を引くのがJunnaの存在です。サークルにあまり参加していなかった僕ですが、たまに行っていたライブで「1年に歌がやべえのいる」と衝撃を覚えた2年のころを思い出します。とにかくアグレシッヴで一つ一つの言葉達を
“とどける” という意図が感じられる発声です。全歌詞は「日本文学専攻の」Junnaであるという点も聴きどころのひとつですね。
戦闘力が高いとは言いましたが、それはHR/HMに見られるような、いわゆる攻撃メインの戦闘力ではなく、総合的にすべての能力ゲージが80パーセント以上伸びているといったような、バランスがありいろいろな色彩を持ったバンドであるように思われます。曲によってそれぞれですが、女声版・平成生まれのSIAM
SHADEという印象があります。



○曲紹介

1.Colors (lyric, Junna music, Junna arranged by tNN)
the Naked Notesの看板曲であり、言うまでもなくこのアルバムのキラーチューン。
テンポ感のあるリズムに、せつなくも力強い歌声が響きます。Aメロで裏メロを弾いているのかと思いきやサビのメロディーラインを再現というようなマニアックなギターアプローチも見もの。そしてなんといっても「色の移ろい」ですね。
“蒼”く日が昇り、 “オレンジ”の海に沈む。そんな「日常」もあれば “黒”く輝く月が、まばゆさを保っていた
“金色”の空を閉ざすこともある。そんな「逆さま」で彷徨う心が「色」の移ろいの中に見られるような気がします。ええ歌や。

2.パズル (lyric, Junna music, Kento)
あいもかわらず歌い続けるギターと、ウィスパリングを強めたボーカル。間奏でのTKのソロが勢いを維持した2番へのいい橋渡しをしてくれています。幼きころには持てていた大切なものは、成長とともにぶち当たる壁によって砕かれ、その一つ一つの「ピース」をもう一度組み直さなければならない。どこにあるのか分からないピースは「不安定な地面を一歩ずつ踏みしめて」いくように探すほかないのだ。若者ならだれもが、抱きたくとも持ちえる勇気と力がないこの葛藤に共感することでしょう。

3.Against (lyric, Junna music, Ryo)
きたああああ!極太なHRです。「戦国武将」をイメージをしたというJunnaの言葉を踏まえて考えるなら、僕としては「花の慶次」がまず出てきました(笑)サビの疾走感あふれるカッテイングが気持ちよく、楽器隊のグルーヴ感はぜひライブで味わいたいものです。ギターソロもどこかしら、Japaneseなメロディーラインを感じざるを得ない。この5人のバンド内の音のせめぎ合いこそが、戦乱期のあの「群雄割拠」を想起させる、そんな曲です。

4.ポートライト(lyric, Junna music, Kento)
「そっと灯る灯台の明かり さざめく水面を照らして」
なんてきれいな一幕でしょう。この曲が一つの風景画のようです。演奏もほかの曲とはテイストの異なるもので、ナチュラルトーンのアルペジオとアダルティーなカッテイング、そしてロマンチックなアコースティックギターは、暗い夜空を華やかに彩る、遠くの街の灯をイメージさせてくれます。そして歌詞カードを見ないとわからないものではありますが、Aメロの歌詞の載せ方がいいです。意味の句切りに沿って短めに言葉を切って、行を変えている点から、言葉をビジュアルを大切にしている意志が読み取れます。僕のお勧めはこの曲です。

5.cloudy night (lyric, Junna music, Kento arranged by tNN)
この曲もハイな疾走感が曲なのかと思いきや、勢いが昇りきらないのがむしろいい。雲間に隠れ月も星空も見えず、ただ心に何かが渦巻き続けるあの時を思い出します。しかし最後の転調も相まって、曇り空の中おぼろげに漏れる月の光を頼りに道を探そうとする希望が見えます。ライブでこの曲を1曲目に持ってきたのはおもしろかった。

6.TIME (lyric, Junna music, Ryo)
この曲もまた、新しさを覚えます。リズミカルでキャッチーなメロディーは見えそうで見せてくれなかった「かわいさ」を聴かせてくれます。
“TIME” とありますが、それがいつなのかと考えた時、やはりそれは「青い今」なんでしょうね。今音楽ができる一瞬を大切にするという愛情が見て取れるポップナンバーです。

7. エピローグ (lyric, Junna music, Junna arranged by tNN)
このアルバムをしっとり締めてくれるアコースティックナンバー。大学生活が終わろうとしている筆者にとっては涙が出てくる言葉がたくさん…。

いつもより秒針が
早く動く気がして
無意識に焦ってしまう
あぁ時間が止まったらいいのに

ホンマそれや。みなさん、今を楽しみましょう(何様)





おわりに

JunnaはMCで曲中の「天気」について話してくれました。
天気は「時間」とともに世界の「色」を変える。このバンドが、この「時間」と「色」というテーマを使って音の空間を表現する所以は、世界を包み込む「空の色」に何かしらの思いを馳せていたからではないでしょうか。
そして、この東京という、モノであふれた離島で覚える感情はまるで天気のように色を変える。でも、そんな絶望や孤独に打ちひしがれても、恒常的に日は昇り、沈み、雲で世界を隠し、雨を降らせる。それは喜怒哀楽という感情として私たちを襲うけれど、そこで負けないという意志として音を奏でる。そんな内に秘める熱情を感じざるを得ません。

the Naked Notesさん、素晴らしい音楽をありがとう!