御書物所での御風干しは60数日行われる。
御風干しで一番気を使う所で、書物を直接天日に当てるのではなく
布地越しに当てなければならない。
三方を幔幕で囲み、頭上にも晒のような白い布地を張る。
密接に張るのではなく風通しを考えて隙間も作る。
他の書物とは違い文鎮を重しにできない。
恐れ多いからである。
幔幕の内側は8畳の大きさである。
実際に地面に8枚の畳を敷き、中央に4つの乱れ箱を置き、
この箱に重要な書物を何点か並べて干す。
幕で囲むのは人目を遮るというよりも、仕事に当たる書物同心
の気を引き締める意味もあったようである。
乱れ箱
当然、葵の御紋は入ってたでしょう
1人が幕屋の入口に立ち、もう一人が周囲を回って見張る。
この役目は盗難というよりも雲の変化を見逃さない事である。
夏の天気は急に変わることが多い。
特に朝から雲一つの無い日などは殊に危ない。
書物に雨は大敵である。
もし御手沢本を濡らしたりしたら切腹も当然ある。
御風干しは2か月くらい行われて風を通したり、
修繕したりするが、最後の3日間は御風干しで使用した箒、
毛氈、奉書紙他の用いた具を数を改めて返納するが、
3日間は休みなしで作業を行うのが常であった。
最終日には若年寄が検分に来て、書物を収納した櫃は
御納戸方により一つ一つ封印されて書物蔵に納められ
鍵を掛けられる。
建物の作りが校倉造ですから、風通しが良い。
これは書物の保存には良いが仕事をする人にとっては地獄!
番方は御殿で勤務でしたが、やはり寒くて堪らず赤唐辛子を
着物に造り込んで寒さ除けにしたが、書物方はそれ以上に
風通しが良いので冬などたまらなかった。
書物の保管をしてる所だから火は厳禁!
手炙りの火鉢は奉行の部屋だけである
そこで工夫をした。
着物・襦袢を何枚も着た。白・紺・赤を着るのだが
順番を間違えないようにした。
最初に白を着、紺を着て最後に赤を着る。
馬鹿に重い、見ると背中の所が異様に厚い。
何かが縫い込まれてる。
和紙が四角く包まれたものが、3列4段、合計12個。
格子目に縫われてる。
包みの中身は木の根のようなものだ。
和紙にくるんだ唐辛子であった。
武士ではなく中間もやった。
赤唐辛子を一束手拭いにくるんで腹に当てる。
中間は脛丸出しだしで、しかも素足で草履をはいてる。
時々爪先に赤唐辛子をくるんだ手拭いを当てて
温めていた。
御書物所には大名からの献上書物もある
献上目録と書物をまず確認する
照合が終わると点検を行う。
新書の場合は大体面倒ではないが古書は違う。
落丁乱丁が多いのではなく皆無である
献上側できちんと前もって調べてるからである。
古書は書き込みがある。それを全て書きこんで行く。
昔は古書は汚れたり、破損のある本は貴重なもので
あっても、まず献上しなかった。
ところが有徳院(8代吉宗将軍)が不満を漏らした。
古書の筈なのに古書らしくない。
古書なら蔵書印があり、書き込みが有るはずなのに
一切ないからである。
本文よりも書き込みに価値があるのに何故無いのか?
それから以降、古書に限り化粧直しは不要。
現状のまま献上すべしとなった。
従って献上するほうがは楽になったが、受け取るほうは
検品が大変になってしまった。
鼠の糞や紙魚は除かれてるが、書き込みは学術的なものでは無く、
悪戯書きも多い。
これを上様に見せる訳にはいかないので除去するが、
その前に全て記録をしておかなければならないのである。
1丁づつ丁寧に繰り込みながら書き込みを探す。
見つけると付箋を付ける。
書き込みを記録するのは他の者がする。
古書には色々なものが挟まってる。
毛髪、楊枝、竹串、紙片、紙縒り、銀杏の葉、押し花、
糸くず、千代紙、爪等、猫の髭。
これら異物を取るが、それをいちいち記録に取っておく。
書物の何処に在ったかも詳細に記すのは当然である。
そして検品が終わると、御文庫と重複するものは、
一定期間保存後、市中の古本屋に払い下げる。
これら本に限っては「紅葉山文庫」の蔵書印が押される。
入札の際には、「廃棄印」も押される。