歌舞伎・顔見世

翌日は雨であったので葺屋町にて芝居見物している。

金2朱(1万2千円くらい)掛かっているが、満足しているようなので

良かったのでしょう。

ただ、この値段だと、土間の席で、いわゆる「かすべ」の席でしょう。


芝居の入場料は演目・俳優によって違いました。

一番人気は「仮名手本忠臣蔵」で、興行が不振の時には、

この作を充てると必ず大入りになったと云われます。


題名は忠臣蔵ですが、幕府は、赤穂浪士を取上げる事を

禁止してましたので、この演目の舞台は「太平記」に

なっています。

従って名前は実際とは変わっています。

その中にユニークな役が有ります。

「定九郎」といいます。

台詞がたった一言で、直ぐに殺されてしまうのですが、

それを演じた初代・中村仲蔵が「名人仲蔵」と呼ばれる名演技で

無くてはならない役にした結果、その後は、2枚目の色悪として

演じられるようになった。

落語にも「中村仲蔵」があります。



値段は、最高級の桟敷席ですと銀30匁、5万円くらい。

高土間でも25匁、平土間でも20匁ですから高いものでした。


下の絵のような桟敷席ですと、茶屋を通さないと

手に入れる事は出来ません。

幕の合間に茶屋に戻り休憩をしたり食事をしたりします。

なにしろ朝早い内から来ているのです。

お互いに夕方まで休みながら行きませんと最後まで持ちません。


しかし、当時の人の歌舞伎に対する期待度は現代では

考えも付かないくらい熱いものでした。

芝居見物というと、前日からその用意を、女性は着替えの衣裳や

化粧で大童でした。

御殿医の娘・みねも、昔を振り返り、前日から芝居を見に行く時の

楽しさ・嬉しさを活き活きと語っていました。



  団十郎は歯磨きの広告にも使われました

そして、芝居小屋に来た客は、贔屓の俳優の小物を買います。

一番人気は市川団十郎で、紋が入った櫛や簪、或いは、

団十郎で知られる「三升」紋を染め抜いた団十郎縞や

煎餅などもよく売れたそうです。



 

次の日は案内人と江戸見物。

江戸の観光産業としては、馬喰町の刈豆屋が有名です。

江戸の観光案内のガイドブックを発行して、宿泊者に配布したり

して客を増やしました。

ここのガイド料は、昼は250文、夜は130文が相場で、

夏などは隅田橋での花火見物、或いは、文にも出てますが

吉原見物でした。

 浅草橋門


浅草御門を出て吉原見物。

「昼見物致すべく候」と言い訳がましいところです。



どの旅人も吉原へ行ってますが、登楼した人は少ないです。

やはり高い金が掛かるので、旅の途中で行き難いのでしょう。

ちなみに行った方も勿論います。

その時は、金3分掛かったそうで、今の金で、7,8万円くらい

でしょうか。

やはり、おいそれとは行ける金額ではありません



次に浅草寺。

「御普請結構、筆舌に尽くし難し」

この表現は、当時の旅日記でよく出てくる表現です。

江戸で一番人気のある寺です。

三社大権現を始めとして多くの堂社が勧請されてあり、

参詣する人を狙っての芝居小屋や見世物小屋、娯楽施設が

沢山有ります。


そして、ここは「居開帳」です。

聖観世音菩薩の御開帳です。

この時は、境内は賑々しく飾り立てられます。


御開帳の目当ては、「御手綱」(善の綱とも)です。

金銀の糸を216本縒り合わせて晒しを巻いて作られたもので、

この綱を観音様の御手に絡めて社の柱などに結びます。


参詣の人達は、この綱を掴むことによって、

観音様と直接触れる事によって御利益を受ける事が出来るのです。


そして、祭りと同じで色々なものが奉納されます。

近くの吉原遊郭からも提灯の奉納が有ります。

そこには遊女の名がついているので宣伝になります。

でこで参詣客は、浅草寺の観音様にお参りして、

その後に「物いう観音様」に逢いに吉原へ行く人もいます。

 吉原仲の町桜

ちなみに各地でおこなわる御開帳と歌舞伎は

密接に関係が有ります。


泉岳寺御開帳の時は「仮名手本忠臣蔵」、北野天満宮の時は、

「菅原伝授手習鑑」、鎌倉鶴岡八幡宮なら「潤清和源氏」、

そして高野山なら「高野心中」などが上演され、好評を博します。

芝居を観て、開帳仏の縁起を知り、そして寺を参詣する。

よく出来ているのです。


江戸の4大御開帳といえば、身延山・久遠寺、京都・嵯峨清凉寺、

信濃善光寺、成田山新勝寺でした。

 成田山御開帳

特に、身延山久遠寺は、信者が御揃いの衣装で道を

練り歩いたので壮観でした。

沿道は、信者や見物人で身動きもとれないくらい大混雑します。

行列は直ぐ寺へは行きません。

越後屋などの豪商などを何軒も寄りながら行くのです。

勿論多大な御寄進が目的です。

ただ、これによって庶民も行列を見ることが出来るのです。