頂点に立つためにはどうすればいいか?

こんなヒントはどうですか?

2012年のロンドンオリンピックで
実に28年ぶりとなるメダル獲得をもたらした
「火の鳥NIPPON」こと、全日本女子バレーボールチーム。


現在、全日本チームの主将を務める木村沙織選手をはじめ、
荒木絵里香選手、大山加奈選手など、
数々の日本代表選手を輩出してきた名将がいます。


高校女子バレー界の名門・下北沢成徳高校で
30年以上にわたりチームを率いている小川良樹監督、58歳。


かつては弱小だったというチームを
いかにして全国屈指の強豪へと育て上げたのでしょうか――。


※対談のお相手は、高校女子バスケットボール界で
前人未到の54度の全国優勝記録を誇っている
桜花学園高等学校の井上眞一監督です。


井上 小川先生にとっての転機は、先ほどおっしゃっていた
33歳の時にスパルタから指導法を変えられたことだと思うんです。


そこからどのようにチームが変わっていったか、
お話しいただけますか。


小川 実はうちも練習に制約がありましてね。


成徳の体育館は狭い上に一面しかなく、
バレー部が使えるのは火木土の週3日だけなんです。


加えて、東京には八王子実践高校や中村高校といった
強豪が揃っていましたので、
優秀な選手はそういう上位チームに集まっていました。


そういう状況の中で、
日本一になるためにはどうしたらいいか、
そのことだけを四六時中考えていました。


当時はどこの学校のバレー部も
厳しい練習が徹底されていたんですけど、
強豪と同じ練習を追求しても、
選手の能力に差がある以上、敵わないだろうと。


それにやっぱりしごきの形だと
放課後練習に行くのが嫌になるんですね。


そこでまず、選手たちが嬉々として
練習できる環境をつくろうと。


要はどうやってバレーを好きにさせるか、
バレーの練習を自分から積極的にやるようにするか。


やらされている意識ではなく、
早くバレーの練習がしたいと思ってくれたら、
もしかすると強豪を逆転できるんじゃないかと考えました。


井上 選手たちの自主性を育むことに着眼された。


小川 それで、井上先生と同じように
部員の上下関係をなくしましたし、練習方法も変えました。


バレーボールは「できるまで」っていう練習が
すごく多かったんですね。


例えば、10本レシーブが上がるまでとか、
アタックが10本決まるまでとか。


ところが、バスケットやラグビーなど、
他のスポーツの練習を見に行くと、
そういう形じゃなくて時間制にしていると。
この発想が私にはなかった。


練習を時間で区切る。
あるいは、数字をしっかり記録して、
昨日よりきょうのパーセンテージが上がるようにする。


そうやって成果を目に見えるようにすることで、
選手たちのモチベーションを高めていったんです。


周りの監督からは、


「そんな甘い練習はダメだ」
「何でできるまでやらせないんだ」


って随分言われましたけど、
それを繰り返しやって精度を高めていくことで、
少しずつ勝てるようになりました。


井上 実際にチームが変わっていかれたわけですね。


小川 インターハイ準優勝や春高バレー3位など、
日本一を狙える位置につくようになりました。


そんな中、2000年4月に大山加奈や荒木絵里香といった
優秀な選手たちがゴソっと入部してきたんです。


大山は身長187センチ、成徳の付属中学で
全国優勝したエースでしたし、
荒木もバレーの経験は少なかったものの、
186センチと高い身体能力を持っていました。


これほどの選手は当時日本中を見回してもいませんでしたし、
日本のバレー界にとって大きな宝でしたので、
この子たちを潰してはいけないと。
指導者としての責任をものすごく感じました。


それまでは「俺が、俺が」っていう気持ちがすごく強くて、
自分が上から選手を引っ張るんだと思っていたんですけど、
彼女たちが入ってきた頃から、
逆に自分は下から選手を支えようという考え方に変わりました。


そして2002年、大山と荒木が3年生の時に
春高、インターハイ、国体で優勝し、
三冠を達成することができたんです。


この時、私は多くのことを選手から教わりました。


選手が主体的に取り組んでいたり、
選手たちだけで上手くチームが回っている時には、
監督は口を出すべきではないと。


井上 ああ、選手の邪魔をしない。


小川 もちろんすべて選手たちだけではできないので、
私は常にコートに立って選手を観察します。


ただ、教え過ぎない、押しつけないということをしながら、
選手たちが自分で工夫する環境をつくっていくようにしているんです。


やっぱりコートで戦う選手自身が
自立しないと頂点には立てない。


自分で自分のスイッチを入れられない、
常に監督からスイッチを入れられて頑張るという状態では、
本当の意味で強くならないのだと思います。


小川良樹(下北沢成徳高等学校バレーボール部監督)

『致知』2014年8月号から

ひとことのヒント

自立しなければ頂点には立てない

石井ゆきお選