ちょっと…背景……(歴史的?)



ヘロドはユダヤ王………では無い



四分割ユダヤの一部の、単なる領主。



偶々(たまたま)自身の誕生の祝賀に

現…覇者であるローマの使者や近隣の実力者を呼び集め


美しい義娘『サロメ』を利用して媚びを売り……あわよくば、『ユダヤ王』として認めさせようと画策している。


つまり……ローマは

ヘロドをなかなか『ユダヤ王』として認めようとはしていない。


さらに卑しいヘロドは…日々美しさを増す兄の娘……姪の『サロメ』に想いを寄せている。



兄を亡き者にして迄も奪い盗った


『淫らな義姉ヘロディア』の血を色濃く継いでいる筈の、美しい『サロメ』……



その『美しい義娘 処女サロメ』を


欲望の眼差しで…観ている。



十七歳と言えば、当時は既に結婚しても不思議でも無い年齢……


なのに………周囲の助言も聞かず…



何時かは義姉と同じように…


…己が物にしたい…

したくて堪らないのだ。



最近はヘロディアも気付いて居る。



ヘロドの『ユダヤ王』への欲望と

……『サロメ』への欲情………



自身…その

『欲深さ』に……

『牡の力』に……


惹かれ


…今…

…この本来なら『唾棄すべき義弟』に…


毎夜……狂わされ続け………

狂い続けている…のだ…



自分の『血』を受け継ぐ…この娘は……



自分のように…


『男を狂わす力』を持つに違い無い!




それが………『サロメ』の背景である。


そして、森鴎外も日夏耿之介も三島由紀夫も


この『耽美的』な

オスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』に惹かれた



が……この『小説 サロメ』は…


ワイルドのサロメに……不満を感じていたから書く羽目に成った。



私自身は…再三明言しているように

研究者でも解説者でも無い。


……『表現者』として…自身の不満に対峙する時



『小説 サロメ』で解消するのが一番自然だった



更に……その基調音と成るこの映像を見付けてしまった!




この『小説 サロメ』の拝見には


常にこの映像を流して居たい。





『小説 サロメ その賛』


……サロメヘの報酬………とは…





判るわ……


観ている………義父も…周りの誰もが……



……私から眼を離せやしない



ほら…ほら……



………もっと焦らしてあげる


熱いんでしょ…

堪らないんでしょ……



ほら……あと一枚…………


…こう?………もう少しよ……



でも………まだよ……




……微笑んで欲しい?


知ってるわ…………ほら……



良いのよ………もっと狂って…




……もう少しよ………こうなの?






最後の一枚が宙に舞い………


……………しばしの静寂…………………




…やがて呼吸を忘れて居たかのような……



「………ほ…ぉ~……………」




と……永ぁい溜め息……が…………ホールに満ちた…



それから……


ようやく…響き航る歓声と賞賛と拍手……




「…なんということだ………」




何か言葉にしようとしたヘロドは…


…ただただサロメを見つめることしか出来ないで…


漸く…手の杯を………激しく呑み干し…


気付いたように……拍手をした………



先ほどまでの欲情も…


最後は……


サロメの投げ上げたヴェールを追ってしまった為に…


…曝け出された筈のサロメの裸体……を


観てもいなかった………




…欲情を超えた……


この世に在り得ない天上の舞い………

を……魅てしまったこと…が…………



…………未だ…実感も出来ずに居る…




もう一度………「…ほぉ~……」嘆息し…



いつの間にか身支度を整えてしまったサロメを傍らに招く



「これぞ……正に天上の舞いだ……

 いや………天使とて…そなたに嫉妬するに違

 い無かろうぞ」


今度は周囲から同感の拍手が巻き起こる…


「これほどの舞いには…どんな褒美が相応し

 かろうや?

 

 遠慮無く申せ

 

 このユダヤ王が

 どのような褒美でも獲らせようぞ」



わざわざ自分で『ユダヤ王』と言い放つのがこの男の処世術なのだ。


…苦笑を抑えるのも辛い




義父の隣の母が………目配せする。


解って居るわ……

…この母の要望は…今や好都合



「…如何なる物……でも…で御座いますか?」


「ユダヤ王に遠慮は要らぬ」


「………それでは…」


「それでは?」



「…ヨカナーンの首を」



……凍りつく………



コレが…空気が凍りつく……ということか!






『褒美の………首!』



続く         茹先炊(じょせんすい)