うちのリンゴはReine des reinettes と呼ばれる種である。直訳すると「リンゴの女王」みたくなる。
実が締まって固く、かじるとカパッとした歯触りで、果実の味はハッキリとしていて甘さと酸味の両立した、これぞ正にリンゴなのである。
生で食べるのは勿論の事、絞ると濃厚な味で、ピンク色のリンゴジュースが得られるし、コンポートにしてお八つにぺろぺろ舐めてもいい。
Golden とかGranny とかPink Lady とかは一年中店頭で見かけるが、このReine des reinettesは残念なことにすぐ傷み日持ちが悪いので、市場に出回っても季節もの扱いですぐ姿を消す。
うちでは毎年大量な出来高である。その量をどう保存したものか、調べて有効そうな方法、大鋸屑や藁の中で保存してみたり、キッチンペーパーやラップで包んでみたり、と色々試してみた。
きっと数日位は延長できているのかもしれないが、ふた月み月と言う長期の保存は叶わなかった。
なんとか冬の間持たせる方法はないのだろうかと頭を抱えた。
何故かと言うと、奥さんの生き様に由来する。
ぼくとしてはリンゴなんて有る時にたまに食べればいい位の感覚で、なくても別に困らない。
ところが奥さんは山梨県出身で幼少より果物を食って育ってきたらしい。日常に果物がない生活は考えられないという。奥さんの御母堂は葡萄の事を「おブドウさん」と呼んでいた事から考えても、如何に果物を大切に考えていたかが伺える。
実際彼女の実家に行くと信じられないくらい美味いイチゴや桃やブドウや梨とかをご馳走してくれた。お土産にぼくの実家に持ち帰ると、目ん玉をひん剥かせるが如く「果物ってこんなにも美味しいものだったんだ。」と皆で驚いた。
八月の中旬、リンゴの実は膨らみ始め、すでにある程度の大きさのものはボタボタと枝からも落ち始めていた。
林檎の木の下の草刈りをするのに邪魔なので拾ってバケツに入れて「終わったら隣人の飼っている七面鳥の餌にでも上げよう。」と除けて置いた。邪魔なものは目につかないところに置くものである。草刈りを済ますとすっかり忘れた。
秋分を迎えいよいよリンゴの収穫期である。既にかなり多くの果実がぼたぼた落ち腐っていて、木の下はその腐ったリンゴが醗酵しているのかほんのりとアルコール臭が漂っている。
その時、あの忘れていた四角いバケツを発見した。
嫌だな、と思った。
どうせ中身はどろどろに液体化して、蛆やナメクジや得体の知れない虫が這えずりまわっているのだろうから。
勇気を出して片付けるべく中を覗くと雨水が張ってリンゴが浮いていた。掴むと実は固くしっかりしていた。
試しに食べてみた。カリカリと歯ごたえはあり、味も十分満足いくものだった。
一ト月もほっておいたのに。
この方法ならイケるかも知れない。
早速、100リットルのバケツ(旧ゴミ箱)に今日収穫したリンゴ(30~40kgくらいはあると思う)を積み重ね水を張って日陰で保管してみる事にした。
数か月後、この判断が正しいかどうか実証できるだろう。