画一的な建物が並ぶ住宅地の道は目印が乏しく、慣れないと迷路に入り込んだ心持になる。

 

確か次の角を右で、次は直進で...、と記憶を確かめるように進む。人口わずか5~6000人の町の住民からほとんど関心を示されない可哀そうな小さな植物園に入った。

 

植物園は閑散としていた。

 

多くの樹木は葉が落ちて枝だけだし、常緑樹の葉にも白い雪が被さっている。地に這う草は雪で埋もれて存在が確認できない。

なのに、ベンチに寝袋に包まった無宿風一人。

目が合ったので「寒いですね」と挨拶したら、「冬だもの」と返答があった。

 

その時、お米を買い忘れていることに気が付いて、彼を避けるようにスーパーマーケットへ戻らなければならなかった。

買い忘れると、リストに書かれていない余計なものを買ったりしているから、非難も免れない。

 

スーパーマーケットは「Carrefour market」と言い、Carrefour傘下のスーパーマーケット巨大チェーン店である。他にもCarrefour傘下にはCarrefour expresseと言うコンビニっぽいのが住民の多い市街には随分とあるらしい。

 

フランスは米(こめ)文化圏じゃないけど、米の種類は意外と抱負である。大きく分類すると丸米と長米。

丸米をさらに細分化すると、一般最低価格丸米(白色不透明:小粒)、デザート用丸米(白色不透明:やや大粒)、丸米ジャポニカ種(白色半透明:やや小粒)、リゾット用丸米(白色不透明)、パーエラ用丸米(白色不透明)。

長米も更に細分化すると、一般最低価格長米(弱粘着力:チャーハン向き/弁当不向き)、キャマルグ産長米、バスマティ極細長米(カレーに最適)、パーエラ用長米、チャイナ種香り付き長米、米米(ベーマイ:アメリカン:琥珀色半透明:絶対くっつかない)、玄米。

などがこのスーパーマーケットでは一般的だ。

用途によって使い分ける。

しっかり研いで水の量や炊き方を調整すれば、炊きたては銀シャリの如く光って、十分食べられる。我が家の和食には一般最低価格の丸米を選ぶ。1kgで1.79€。

ここ数年コメ価格の高騰を感じる。

 

買い物にこんなにも苦労しているのだから、今晩のおかずは「納豆」と強く主張して、冷凍庫から1パッケ出してもらおう。

なら、長ネギも必要なので野菜売り場に戻る。二本を選んで秤に乗せる。0,89€。

 

お米と長ネギだけでレジに並ぶのも、子供の使いっぽくて照れるので、なんか他にないかな?と思案した。

幸い穀物・パスタコーナーの裏の棚は甘菓子コーナーである。

酒類を制限されて以来、なんか甘いものを欲しがる体質になった。ここまで来てついでなのでフルーツケーキと呼ばれるアルコール付け干し果物(安価なカルフール製品なので、ほぼ干しブドウ)入り英国風菓子を探しに行く。

棚の最下段奥を発掘、発見。400g 2.55€。

 

なんなら、ついでに酒の肴も欲しいかも。と言うことで、健康のためとか、贅沢は敵とか、妻との買い物の際には決して許されない代物のRosetteを探しに入口付近の売り場に戻った。日米英ではサラミソーセージと呼ばれているものと同等と思う。脂質や塩分が多いので禁止されて久しい。

リヨン産もの一塊400 g、 5.59€。

 

さっきから同じところを行ったり来たりと、全く今日の買い物は要領が悪い。

 

受付に預けた、先に購入しておいた品物の詰め込んだリュックサックを受け取って、今度こそはとリストを指確認して再出発。

一度通った道を戻るのは癪なので、国道16号線を渡り、新建設された集合施設(医療機関・商店街・レストラン・カフェ)のパン屋に寄った。

 

近頃はどのパン屋も多種多様に品物を揃えている。パン屋によっては微妙に呼び名が違ったりして戸惑ったりする。

例えば、フランスの代表的パンと言えば「バゲット」が上げられるが、このパン屋で「バゲット下さい。」と言うと、「バゲットはありません。」と目の前にあるにも関わらず無下に断られる。「じゃあ、それはなにか。」と問えば、それは「トラディ」であると言う。「トラディション」だか「トラディショネル」の省略形はらしい。

詰まり形は同じでも製法が違うらしい。もちろん味も食感も違う。

専門じゃないのでぼくの個人的な感想に留めるけど、「バゲット・トラディ」は中身がモッチリして油分と塩分が多少多い。既存の「バゲットは」一日も経つと乾燥し「お麩」化する。

この乾燥しお麩化した「バゲット」を用いたお八つが「パン・ペルデュ(pain perdu)」である。フレンチ・トーストとも言うらしい。

 

バゲットより一回り太いのがパンである。パンは男性名詞なので、一本買うときは「あんぱん」と言えばよい。またいわゆる四角の食パンは「pain de mie (パン・ド・ミ)」なので「パンの耳」の「のみ」を小さく曖昧に発音すれば通じるよ。と、妻が娘を出産した時、手伝いに来てくれていた母に伝えると、喜んでしまって「パン屋へのお使いは、私に任せなさい。」と大はしゃぎであった。

列に並んで、そんな過去を思い出しながら「トラディ」を二本注文した。

 

実はもう一つこの店で目当てにしていたものがある。

「シューケット」と呼ばれる、小粒のシュークリームのクリームの入っていない菓子である。駄菓子っぽい菓子。

皮と言うか殻と言うかにザラメの砂糖がまぶしてあるやつで、最初に食べた時は「騙された!」と、きっと日本人なら誰もがそう思うだろう。ぼくはそう思った。

騙されているのに怒りが沸かない。この肩透かし感。何なんだろう?クリームの重さがないから、いくらでも食べられて、止められない。

パクパク食って帰ろうと期待していた。

それをさっきからガラスケースを覗きまわして探しているんだけど、全然見当たらない。

訊くと今日は扱ってないと言う。

なんなんだよ、とバゲット代2,3€を払って、渋々店を出た。

 

ここからは再び閑散とした道程となる。

春になれば畑になる今日は白銀の原。

この道は多分旧街道だろう。

ネットで見つけた中世頃のいい加減な地図でも、本道だったらしいことが想像できる。

国道に寸断された城の敷地に、勝手口的裏門の朽ちた姿がまだ残る。

 

人通りの少ない道でも見晴らしは良い。なので遠くから人が歩いて来ることが容易に確認できる。

どの切っ掛けで挨拶を交わそうかと考えている時間が結構長い。

互いに視線を確認できる距離に縮まっても、声が届くにはまだ距離があり過ぎる為、更に数十歩近づく間は顔を伏せて距離を縮める。ここぞとばかりにおもむろに顔を上げ視線を合わせ「こんにちは」と互いに挨拶を交わす。

今日は二人の女性と一人の男性と挨拶を交わした。

 

一本道が終わろうとしたその時、突如微かな呼び声らしきが聞こえた。

 

そううだった、君とは久しぶりだったね。

ぼくのことを覚えていてか、ただ人恋しくてだけかは知らないが走って近寄ってきた。

柵に守られて心配はないだろうけど、狩りの奴らに襲われんなよ、と声をかけ帰路に就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪の積もった一日の数時間を四回に分けて、だらだらと綴っただけですが、最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。

 

明日はもう2月。

まだ寒さが続くと思いますが、お体にお気を付けてお過ごしください。