娘が日本の研究所に単身で(短期ではあるけど)赴任して早一ヶ月が経つ。
いい大人なんだから心配することでも無いんだけど、やはりそこはクズな親でも、せざるを得ない心情があって、頻繁に日本の
現状なんかをネットで検索してしまう。
刺殺、絞殺、毒殺、強盗、通り魔、虐待、なんでもありのオンパレードである。
ホント怖い、毎日のように殺人が起きているんじゃないだろうか。
日本って世界に誇る治安の整った国じゃなかっただろうか?
ぼくの知らない間に、犯罪大国に成り果てたのだろうか。
「でもちょっと待てよ、一旦落ち着こう。冷静に考えてみよう。
報道の姿勢にフランスと日本の違いが見られるのだろうと推測できる。
そういえば、かつてぼくが勤めていた会社で同僚が突然出勤しなくなった。噂だから確かではないけど、よくよく聞いてみると家庭内暴力で奥さんやお子さんにかなりヤバいことをして、それで捕まったんだった。
で、野次馬根性で調べてみたけど、それらしい記事はみつからなかったよな。
コロナ禍の自宅待機期間で家庭内暴力が数パーセント上がった、とか言う全体の指標を社会現象としては取扱いされるけど、巷のイチイチをフランスの報道機関はよほど稀なケースでないと扱わないもんな。
日本の報道は、ほんの0.0数パーセントの、更にローカルな話題をイチイチ詳細に報道しているんだろう。」
と自分に言い聞かせても、子を持つ親の心配は尽きることがないのであった。
なので、ちょっとでも不穏なニュースを見かけると、時差を確認して娘に電話する。
娘はほとんど電話にでない。
携帯を置きっぱなしにして、ラボに入ったきり出てこないのかもしれない。
研究なんかもういいよ。
ノーベル賞なんかいらないよ。
ノーベル賞の賞金なんてきっとたいしたことないよ。
細胞や分子調べて一体何になるんだ。
わかった!
この父が今まさに真実、真理を教える。
「生まれたら、死ぬ。」
それ以上でもそれ以下でもない。
だからもういいよ、早くラボから出てこいよ。
と数時間葛藤していると、ようやく
「今ムリ。忙しい。」
とショートメッセージが届く。
安心するも、つかの間。
いやまてよ。そこは日本。
誰もが日本語、打ち込めるじゃないか。もしかして誰かしら、娘以外の第三者、が娘になりすまし、入力しているかもしれない。
娘は拉致、監禁されているかもしれない。
妄想がいやにリアルに脳裏に焼き付いた。
今ようやく分かりました。
いやー、ホントごめん。
おかあさん、おとうさん、長い事心配おかけしまして。
って、もう二人とも死んじゃったんだけど。