昔の人は「うるさい」を漢字で「五月蠅い」と書いたようである。
 こういうのを当て字と呼ぶのだろうか?
 当て字にしても、よくもまあ、こんなややこしい「蠅」なんて字を使う気になったものだと感心する。虫偏の右にある旁(つくり)、ぼくの知識では書き順が想像できない。

 確かに5月はハエが繁殖し、ブンブンと飛び回り始め、目障りで鬱陶しく感じる頃ではある。
 そして夏、ハエが多発している間は、もう容赦なくハエ叩きでバシバシとぶっ殺していた。殺害を罪悪とも感じなかった。

 今はもう冬になって、ハエは出没しなくなっていた。

 

 室内は薪ストーブのおかげで20℃位に保たれている。

 昼間、換気の為ちょっと窓を開けたスキに、一匹のハエが室内に避難してきたのか、今になってパソコンの前で仕事をしているぼくの頭上を飛び回っている。

 ハエの寿命なんかたかが知れている、最近孵化したんだろうと思う。生まれてはみたものの仲間は誰もいない。

 これは精神的にとてもつらい状況である。それでもって、凶悪で凶暴で危険な人類と言う生物の中でも。非情な精神の持ち主であるぼくでも良いから慕って来たのかな? と錯覚してしまう程親し気に指先に止まったり、頭髪に止まったりする。

 そんな様子を眺めると、なんだかちょっと気の毒に感じてしまって、とてもじゃないけどもう殺害する気は起らない。動きなんかとても鈍くて、簡単に指でひょいっと捕まえられた。流石に蠅だから餌をやって飼う気も起らない。明日の朝にでも屋外に逃がそうと思った。

 

 そして、この自分の行動で、ああなるほどと「人間のエゴと偽善」を納得することができた。