一日でもカラッと晴れて、気温も上がってくれればこんなことには成らなかったはずなのである。

 

 朝晩の気温は摂氏14 ~16℃位、日中でも20℃を越えるか越えないかで時々日差しはあるものの、ほぼ曇り空のなか娘が彼氏を連れて戻ってきていたので「じゃあ海にでも行くか」と言うことになってDieppe方面のQuibervilleに行って戻ってくると、桂剥きにして屋外に干してあったクルジェットはカビてしまっていた。湿度の所為である。たった2ー3日の出来事なのに。

 

「どうするの、これ ? 」と娘は問う。

 

 正月のお供えの餅に生えたカビで、かつて父に 「青カビはともかく赤カビや黒カビは食っちゃいけないぞ。」と言われた記憶があるので、その訓に従って捨てざるを得なかった。

 

 帰宅したら「かんぴょう巻」を振る舞おうと思っていたのに残念なことであった。頭の中ではもう「かんぴょう巻」に決まっていたので他の料理を思いつかない。

 

 妻と娘がスマートホンをかざし「こんなのはどうか?」と提案した。それは <galettes de courgettes>  と言うものだった。本来ジャガイモなんかで作る様であるがクルジェットで応用したものがサイトにあげられていたのを見つけたそうである。

 

 今の世の中老若男女を問わず皆スマートホンを使って調べ物をする。以前なら図書館に行って調べたい物のコーナーを探し、調べたい書物を数冊選び、知りたい項目を丹念に探し当てると言う行為が必然であった。まあ根気のないぼくには無理な芸当であったけど。便利な世になったものだとつくづくそう思う。

 

 図書館であろうがスマートホンであろうがパソコンであろうが、ぼくは文章を読まない。特に説明書は読まない。なのでレシピも読まない。画像で見る限り彼女たちの示した料理は日本で言えば「お好み焼き」、韓国風なら「チヂミ」的なものである。できなくもなさそうなので物は試しで作ってみることにした。

 

「表面はカリッと、中はシットリ」

 

「具の水分は十分に搾り取る」

 

 とか、人に作らしておいて娘や妻はやたら注文が多い。個人的見解と経験であることをあらかじめ断っておくが、これが女系家族の女性の立ち位置である。「うるさい! 黙っていろ。」と言えば、「あなた(パパ)は人の助言に耳を傾けない ! 」となる。命令を助言に置き換えられる。夫として父として見解を述べれば、文句に変貌する。もうトンでもない社会である。

 

 まあ、好きなように言わしておいて、彼女たちの望む < galettes de courgettes > を作ることにした。とは言え、ぼくもかなり自己中心に生きてきたので彼女たちの思惑通りのものが出来上がることは保証できなかった。実際、出来上がったものは「チヂミ」だったし。

 

 千切りピーラーで細長くすりおろしたクルジェットに(水分を取り除く)、

ニラ (数年前、一度種を撒いただけで年中収穫できるニラが発生している) を刻み入れ粗塩小麦粉を少々加え、強火で焼いても餃子のようなほんのり焦げ目がつくようにしたい目的で片栗粉(なかったのでコーンスターチ)を更に加え練り、ごま油の敷いたフライパンに一塊を入れ伸ばして焼く。タレは醤油に砂糖少々、黒酢少々、ラー油を混ぜ合わしたもので、焼きあがった「チヂミ」に滴らして食べてみた。

 

 

 家族の評価は「思っていたものとは違うけど結構おいしいね。」 と評判は悪くなかった。 ただ、ぼくの作るものはいつも酒のつまみっぽいものが多いという。

 

 そりゃそうでしょ、その日の昼にはDieppeで重たい食事をたらふく食べ、短期間とは言え旅行で疲れていて、ガンガンに冷やしておいたビールをすぐ飲みたいのに我慢し、それで作るものといったらやはり酒の肴でしょう。

 これはビール良し、赤ワイン良し、白ワイン良し、ウィスキー良し、日本酒良し、焼酎良しとなんにでも合う。

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 ちなみに赤ワインに合わないツマミは納豆(再度、個人的見解と経験であることをあらかじめ断っておく)である。

 納豆をつまみワインを飲むと口内の独特な異変に驚かされる。はっきり言ってワインが不味い。気を取り直して再び納豆をつまむと納豆も不味くなっている。相殺しあっている。ぼくはこんな相性の悪い二物に出会ったことがない。チーズと納豆が同じようなものだろうと高をくくっていたのが失敗の原因だろうと反省した。