Figuier

イチジクの木
 
 冬のこの最中、まだイチジクの木に実が残っている。
 この実は熟していないので、実を切っても青く、硬く、食えない。
 うちの庭のイチジクは実は小さいけれど、程よく甘く皮が薄いのでそのまま食べられる。けれど、蜂なんかが潜っている危険もある為、一応実は割ってみてから食う。夏から秋にかけ沢山食べた。

 イチジクを漢字で書きなさい。と言われても、確か「無」か「不」で「果」があったような、くらいの記憶を呼び起こすことはできても、その漢字の配列がいい加減になりそうで、正確には書けない。
(パソコンで打てば簡単に出てきますが、意味表記の当て字だろうと思うし、詰まらないのでカタカナで続けます。)

 イチジクの木は不思議な植物であると思う。
 一般的に果実は花が受粉してなるものだと教わったはずが、イチジクの木は花を咲かせず実を付ける。
 イチジクの木を庭に植える前は、そしてその木が実を付ける前は、関心はなかった。

 今はネットで調べれば答えは簡単に出てくるし、体を動かさなくても目の前に回答がある。便利になったと思う反面、教師は大変だろうな。そう思う。
 授業で教えていても、スマホをいじっている生徒に「先生、それはもう知っています。」とか言われたら立つ瀬がない。スマホの所持を校内で禁止するのはその為かもしれない。

 数年前、知人を招いて雑談を交わしていて、夜半に叫ぶ野獣の話をした。
 うちは森に囲まれているため、夜中に奇妙な叫び声が聞こえる。わたしが擬声を発し、あれはなんだったんだろうかと言う話をしたら、おもむろにスマホを取り出し人差し指を動かし、
「その鳴き声で、この時期だったら、この動物だ。」 とか正解を導く行為に耽っている。
 なんか詰まらない。
 そういう話をしたいんじゃない。正直に言えば、その鳴き声の主はどうでもいい。鹿だろうが猪だろうがキツネだろうがフクロウだろうがまあ大概そんなものくらいだろうと思うし、だとしても、だからどうなんだと言われてしまえば、それまでだし、そうではなく、
 静寂と闇のなか突如として聞こえる奇声、自然の驚異、そこから生まれるドラマ、分からない事での面白さ、想像力を掻き立て、空想の世界を構築する楽しさ、そういうものを語ろうという趣旨が分からないのである。

 昨年春、畑が何者かによって荒らされた。作物の新芽が食いちぎられていた。
 犯人は野兎か野鳥だろうと見当をつけて苦労してネット(網)を張った。
 翌朝点検しに行くと、その網をどう搔い潜ったかハリネズミが侵入していた。
「犯人はお前だったのか」
 怒り狂ったわたしは、ハンドボールくらいに丸まったハリネズミを蹴っ飛ばしながら森の奥に放り込んだ。
「犯人はハリネズミだったぜ。」 そう隣人に伝えると、おもむろにポケットからスマホを取り出し、人差し指を上下左右させ調べている。
「ハイハイ、そうですよね。冤罪ですね、ハリネズミじゃありませんよね。」

 大体わたしは、あの、人が、スマホで検索するときの指の動作が好きではない。
 
「チっチ」 とか舌鼓を打ちながら私の主張を否定されている気がする。
わたしが何か言うと、
「あっ、ちょっと調べてみる。」とか、
「待ってね、今調べるから。」とか言われると、
「いいよ別に調べてみなくても。」と言いたくなる。
一々審査されている気分になる。
「人は絶えず正確なことを言わなきゃならないのか。」 という強迫観念が芽生える。
 かつて学校を無断欠席して、翌日欠席の理由を先生に説明すると、
「ちょっと待て、母親に連絡してみる。」と言い出す教師がいた。
「あーあ、連絡しちゃうんだ。ぼくが言うこと嘘だってわかっているのに、意地悪してわざわざ連絡するんだ。 連絡して母にばれたら、うち修羅場になるよ、それでもいいんだ。」
と言う当時の感情がふつふつと沸き上がった。
 いい加減なことはもう言えない社会なのだろうか? 嘘やハッタリはもう通じないのだろうか?
 いや、確かにそんなものが通じる社会の良くない事は十分承知しています。承知はしていても…、

 はい、わかっています、話が大分逸れていますね。

 結論としては、イチジクの不思議は、ネットでは調べないで、もう少し観察して、眺めて、判断してみようと思いましたので
何一つ学術的なことは申し上げられませんね。
 
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Figues
 
 生で食べても味の薄いイチジクは砂糖で煮詰めると甘露煮としておいしく頂けるし、保存も冷蔵庫で一月ほどは持ちます。
 イチジクの味はするのか? 
と問われれば、わたくしの見解では「しません」と答えますが、微妙に味の分かる方なら、若しかして「これはイチジクだね。」と判断できるかもしれません。
 目を閉じて味わえば、食感と言うか舌触りはイチジクですので、味はともかくもイチジクであることは紛れもありませんよ。
 更に言わせてもらうと、イチジクに味の特徴があったかと言うと、口に含んで風味が広がるわけでもなし、甘味に特徴があるわけでもなし、強烈な、インパクトのある果物ではありませんけどね。