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牡蠣(かき)

 

 牡蠣の殻を開けるのは厄介だと思っている人がいたら、それは、多分事実でしょう。
 でも、修練を積むと、そう厄介なことではなくなります。ぼくは40年の修練によって会得した技術で、今はもう簡単に開けられます。
 何事も長年の修練と経験によって会得するものがあるようです。

 以前、鉄の溶接をする機会がありました。
 近頃は便利になりまして、Youtubeで検索すると実演が見られます。ノリで付けるように簡単に作業を進めています。
 「なんだ、簡単そうじゃん」と言うことで、やってみることにしましたが、そう簡単なことではありませんでした。
 Youtubeで実演されている方々は皆修練を積んだ人たちです。
 第一、溶接するときに装着するマスクを被ると、真っ暗で前が全く見えません。接続する部分の見当がつかないのです。
 邪魔なので裸眼で作業を続けて、あくる日、涙がぽろぽろ取り止めなく流れました。かかりつけの眼科医に

 「悲しくもないのに涙が流れ落ちて困っています。どうにかなりませんか?」と相談すると、
 「バカモン、直ぐ来い!」と言われ、幸い何事もなかったわけで、ただ、
 「君、こんなバカなことをしてたら、目を潰すよ。」と散々説教されました。

 そうです、牡蠣です、牡蠣の記述を進めていたのに話がそれてしまいました。
 牡蠣は2枚貝ですが貝殻が合わさる所の見極めが難しいのです。
 貝殻がフランス菓子の「ミルフォイユ」みたく層になっていまして、見間違えるとナイフが差し込めません。
 専用ナイフは存在しますが、それだと嫌がっているところを無理やりこじ開けるような乱暴な行為になってしまいます。
 無理やりこじ開けてはいけません。

 貝を食べ、がっかりさせられる時があります。それは砂を噛んでしまう時です。
 せっかく大好物の貝を食べていて、砂で食感を台無しにされるのはやりきれないのです。
 牡蠣に砂が含まれることはありませんが、乱暴にこじ開けると砕けた貝殻の破片が中に入ります。
 牡蠣は開くと中はまだ海水が充満しています。それは一旦捨てます。その時に大きな破片は一緒に流せ出せますが、細かなものは残ってしまうのです。

 

 「ならば、その破片を水で漱いで洗い流せばいいではないか !」 と或る人は言います。いや、ほとんどの人は、言い切ります。

 ここからが大事な点であります。
 それは、いけない。 とても、いけない行為です。 大体、大変勿体ない。
 海水を捨てても、またじわじわと水分が湧き出してきます。この汁と身を、啜るように食するのが、醍醐味で大珍味なのであります。言わば生牡蠣を食べる時の最高のソースなのです。
 そのソースに貝殻の破片が混じっていては、やり切れんのであります。

 なので、牡蠣を開ける時の注意点は

  • 研ぎ澄ましたステンレス製のピラピラした薄刃のナイフを用い、
  • 貝殻の合わせ場所を見極め、
  • スルッとナイフを差し込み、
  • 貝柱を素早く切る。

すると牡蠣は観念したように、スッと口を開いてくれます。

 以上が、長年の面倒にめげず、ぼくの修練による方法であります。