薬屋です。

去年の7月の日付で残っていた下書。


俺は優しい人間ではない。

あの時はワタシさんが消えてしまうかもしれない不安から解放されて、それしか思い浮かばなかっただけ。

うまそうにケーキ食べる姿が見たかっただけ。

俺も単純人間ってだけ。

ワタシは長い間髪を切ることが出来ずにいた。


円形脱毛で出来たハゲを隠すためでもあったし

誰かに触れられることはムリだった。


そして何よりこの髪の毛は

子供がお腹に居た時に在ったと思うと

切り落とすことが出来なかった。


ただのタンパク質なのだけど

それでも切れなかった。

安い感傷だと思ったけど

それでも切れなかった。


時間に比例して

髪はどんどん伸びて腰に届く頃には

美容室での数時間を過ごせるような状態の

ワタシではなくなっていた。


悟り開くまで伸ばすの?

なんて人に笑われても切れなかった。


この髪の毛の先にだけ

あの時のワタシが居る。


自裁し、退院したあと

携帯に沢山残っていた薬屋さんからの

留守電やメールに

どう返事を出していいか分からずにいた。


話すことはないようにも思えたし

自裁の出来事を隠して会うことに

当然戸惑いもあった。

同じくらい、このままではだめだとも考えた。


髪を切りました。

そして、髪の毛切ったよとメールしました。

その晩に

「祝散髪」と書かれたプレートがのったケーキを

片手に薬屋さんは部屋にやってきました。


連絡しない間のことなど一言も話さず

「おっ!いいじゃん。」

って昨日も会っていたみたいに

薬屋さんは云いました。


ワタシは長い間、切れずにいた髪を

話すきっかけのために切りました。


髪の毛を切っただけなのにケーキ屋さんで

祝散髪なんてプレート頼める薬屋さんは

優しい人です。


事あるごとにケーキでワタシを立て直そうとする。

ワタシが単純でチョロい人間だと

早々にお気づきでしたか?