治療室で目が覚めるまで
繰返し同じ夢を見ていた。

ある朝
寝ているTさんの目から涙が流れていた。
むっくり起きたTさんが
「お前が"全部治ったよー"って
走ってくる夢見た。
思わず泣いちゃったよ。」
と涙のわけを教えてくれた。

「全部治ったよ」と云えるワタシなら
どんなによかったのか。

過去は変わらないし
消すことなんて出来ない。
それでも日々を
今より少しだけ健やかに穏やかに
過ごせたらと願っても
叶わなかった。

Tさんの涙を見た時
この人を巻き込んではだめだと思いました。
この人の優しさを
ワタシはいつか利用し裏切る。
自分をこれ以上嫌いにならないために
疲弊してしまって
大切にしたい人に甘えてしまう。

Tさんも
「俺と居たらいつかお前に無理をさせる。
"大丈夫だ"と"平気だ"と云わせる。」と。

浮かれてはしゃぐような関係でもないし
そんな感情を大切だ思う勘違いは
二度としたくないし
ワタシは要らない。
そんな感情の先に暗闇や後悔が
必ずあるとは限らないことは分かっている。
忘れられる後悔や未練を越えて
みんな暮らしているのも分かっている。
でも、ワタシは同じ過ちを繰り返した。
だから、そんな感情は
ワタシはいらない。
そんな感情が一時の心が見せるまやかしに
従って道を外して
寄り道ともいえない道をふらふらして
元の道にも戻れなくなり
暗闇にたどり着いた。

人はそんな感情を尊く感じたりするけど
ワタシはその結果
最も尊い子供の命を奪った。
ワタシは同じ過ちを繰り返した。
だから、そんな感情は
ワタシはいらない。

「ほら」と差し出された手は
目眩がするほどでした。

手を伸ばさない理性。
思いは言わない覚悟。
大切だからこそ巻き込まない。

理解し合えるまで話をして
離れたことに後悔はないのに
夢にTさんが出てきたのは
「あのときはありがとう」
と云いたかったからなのかな。

諦めたらおしまいだけど
諦めることで楽になることもある。

治ることを願って信じてくれた人を
ワタシはもう一人知っている。
カズさんもワタシの身体が
必ず治ると云い続けてくれた。

ありがとうって
ワタシは伝えられたのかな。
手をさしのべてくれてありがとうって
ワタシは伝えられたのかな。