記憶の蓋が開いて

これ以上はムリだと

自裁したあの夏から10年。


失敗して、息をしてる今に

思うことは多くはないけど。


ガラスを割って救急車を呼んだ

棟梁のおじさんは

見ず知らずの人なのに

ワタシが目を覚ますまで待っていました。


棟梁のおじさんは

「おじさんの身の上話を聞いて」

と話し始めました。


お兄さんを自殺で亡くした話を

自裁に失敗して落胆していたワタシは

どこか上の空で聞いていました。


「いつでも会えるとかいつでも言えるとか

間違いだし嘘だから

会いに行かなくちゃいけないし

思いは言葉にしなくちゃいけない。

そういう人いるでしょ?」


ワタシは答えなかったけど

10年経った今も心に浮かんだ答えは同じ。


10年前、退院した足で訪ねた土地に

行ってきた。

10年経った今も景色に

色を見るだけでした。


少し疲れたように見えたひまわりを

眺めながら

棟梁のおじさんが病室を出ていく時に

残した言葉を思い出しました。


「人は夏の終わりに

ある日突然どこかへ行くんだな。」


諭すわけでも同情で導いた言葉でもなく

この人はこの事を長い間何十回も何百回も

擦り切れるほど考えてきたんだろうなと。

そしてたどり着いた言葉なのだろうなと。

そういう心の積み重ねを感じる言葉を

あの日ワタシに残してくれたことを

思い出しました。