退院した足で

上書きされた場所に寄り道した。


夏の夜にくるのは5年ぶり。


階段の数は変わらないけど

途中から数えられなくなった。

大好きだった石階段に腰掛けたいけど

出来なかった。

カメラを構えたけど

もう残したい風景はなかった。

一番好きな夜の場所だったのに

騒がしくて落ち着かなくて

喉の奥が焼けるみたいに苦しくなった。

吐き気がしてきた。




前の日は抜け出して山に行った。

前のようには音は聞こえなかったけど

誰も居ない特等席のままだった。

山藤が咲いていたから

もうじき誰にも知られないまま

荒地になるだろう場所で

花火をぼんやり眺めました。

遠くから歓声が聞こえました。


大切な場所は簡単に教えてはいけない。

「また一緒に来ようね」

そんな一言も云えないような相手なら尚更。

惨めなお願いをしたあの夜を

はしゃいだ夜で上書きして

嘘の上塗りをしてしまうような人なら尚更。