「最後の妊娠をしたあの時

あの人に妊娠を告げても

ワタシに先を選ばせる沈黙が待っていた。」


たどり着きたくなかったこの答えに

間違いないはないと感じたのは

震災の時の電話。

想いが果てた日。


後悔だらけのワタシでも

あの人との事は後悔したくなかった。

自分の想いだけは後悔したくなかった。


叶わなかった想いを

墓場までワタシは抱えていくのだから

もし未練に苦しんだとしても

後悔したくなかった。

なのに、未練なんて

欠片も残せないような終わりに

後悔だけが残ってしまった。

トラウマのおまけ付きで。

ワタシはあの終わりを

流産の時を

堕胎の時を

何万回とフラッシュバックで

繰り返している。


最後の妊娠を知った日。

流産と堕胎のたびに絶望してきたけど

命に、次も今度もないのだけど

想定外の未来も、壊れる運命も

望まない結果もあったけれど

「ああ、このための出来事だったんだ。」

そうワタシは思いました。


あの人に妊娠を伝えようと

少しの迷いもなかった。

繋がらなかった電話の意味に

気が付けなかった。


あの人に疑われることを自分がしたことに

あの人の気持ちが冷めたことに

少しも気が付けずに1日また1日と過ぎて。

二人で子供を迎えたい思いと

「彼女を幸せにしたかった」と云ったあの人に

また繰り返しになるかもしれない不安と

それでも二人で過ごした穏やかな日の記憶と

心が揺れていました。


折り返しの電話はなかったし

「会えない?」のメールには

「寝てた。」の返信で。

「話せない?」のメールには

返信も来なくなった。

考えても考えても理由は分からず

ひとりで産もうと。

愛ちゃんの事や父親の病気の事が

いっぺんにやってきたけど

子供のエコー写真を見ながら

ひとりで産もうと迷いはなかった。


流産してしまって

ワタシはどうしようもなくなった。

心が掻き乱れて

誰かにすがりたかったのだと思う。

あの人の部屋の明かりを眺めながら

掛けた電話にも出てはもらえなかった。

何故流産したのかも、あの人の拒絶の訳も

愛ちゃんの自殺も何もかもわからなくなって

疲れてしまった。


「別れに従う」とメールしたら

一分と置かず、あの人から電話が来た。

今夜白黒つけたいのだと笑ってしまった。


妊娠を伝えなかったことを

何か違う未来があったのかもと

自問自答し後悔していた時期もあります。


でも、伝えていても

ワタシに先を選ばせる沈黙が待っていたと

答えにたどり着きました。


ワタシと"居る"これからをあの人が

あの時望んでいたのなら

話し合うことを選んだでしょう。

誤解だと伝えた時に考え直すでしょう。

「いらない。」とは云わないでしょう。

ワタシが伝えた流産を

悲しみどころか驚きさえもない声で

「うん。」のひとことで済ませないでしょう。


いつから決まっていたのかは

分からないけれど

あの人とは終わる運命だったのだと思います。

終わるべくして終わったと思うけど

始まってさえいなかったと今は思うから

運命なんて言葉を使うのも気が引ける程です。


それでも、運命みたいなものが

あの人とワタシの間にあったのなら

流産を伝えた弱い自分を恨みます。


運命みたいなものがあったのなら

あの夜に戻れるなら。

運命みたいなものに全力で逆らって

電話はしない。

流産は伝えない。

理由も分からないまま

何も話さず終わらせる。

多分あの人もそれを望んでいたのかも。


運命みたいなものがあったのなら

子供がお腹に居た時間に戻れるなら。

子供を無事に生むことだけ考えて

子供を不安に曝すようなことはしない。

ワタシは子供と会えることを

望んでいたのだから。


ワタシに纏わりつく運命みたいなものが

もう少しだけ柔らかだったらな。