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一般的な、拉致ではないけれど、松平慶子を拐(さら)ってから一週間が経った。
戸建ての一般住宅が立ち並ぶ、そのうちの一軒の、普通の住宅の地下に、松平慶子はいた。
その地下には、病院の手術室までとはいかないが、それなりの設備が整っていた。
顔の整形と、金子銀子姉妹から、GPSが体内にあるから取り除いてくださいと、言われたミチコ婆からの伝言で、ヤミ医者の大山は、松平慶子のアンドロイドを、言われた通りに手術した。
GPSは電源を落とさぬままにすぐに、これもまた、ミチコ婆にお世話になったことのある、遠洋漁業の船乗りに渡され、太平洋ど真ん中に、沈めてもらった。
運び込まれて次の日には手術して、2階の部屋のベッドに寝泊まりさせた。
ヤミ医者の大山には、この手合いには当たり前のごとく、家族は居なかった。
そして今日、一週間経ち、顔の包帯をとる日となった。
ミチコ婆と前薗爺さんが、それを見守る。
大きく引き伸ばした、伊藤直樹の母、咲子の写真を持ち上げて、包帯のとれた顔と見比べる。
「毎度、いい腕だね」
ミチコ婆が、大山を誉める。
「ありがとうございます」
少し、年下のようだが、若くはない。過去に何事か恩義に感ずることでもあるのだろう、この仕事をしているものとしては、丁寧な言葉づかいだった。
「じゃあ、これを」
ミチコ婆が、帯のついた札束をひとつ、手渡す。
「いつもすいません」
頭を下げる、大山。笑顔は、ない。
軽自動車の箱バンで、3人は大山宅を離れた。
それと入れ違いに、黒塗りの高級車が玄関に横付けし、サングラスの黒服が4名降り立つと、呼び鈴を鳴らした。
「誰だ?予約のないやつは、知り合いの親分さんのところの野郎でも受け付けないぞ!」
低くドスの効いた声音で喋る大山を、黒服のひとりがいきなり、殴った。
大山には、どこから腕が出たかわからないくらい、早かった。
家の中に押し込まれ、4人に代わる代わる殴られ蹴られ、し続けた。
ひとしきりして、リーダーらしき黒服が、大山の襟元をつかんで、血だらけの顔に向かって、言い放った。
「松平慶子は、どこだ?」
「2016年8月26日」
Koichi Tanaka KAGOSHIMA. Has written a novel