5


「あたしたちは、アメリカのエマニエル名義に、大企業の預貯金の、一円以下の利息の端数の寄付を戴くことで、稼いでます。もちろん、大企業の方は、寄付してることは、知りませんけど」
   小野金子は、畳の上に正座して、いならぶ年寄りに、説明した。
「こそこそやって、名義の寄付先も、短いスパンで切り替えるので、見つかってません。あまり、大々的にやってしまうと、相手のハッカーに見つけられる可能性があり、危険です」
「つまり、銀行にハッキングして、一円以下の目につかない、利息の端数をコツコツ盗んでるってことね」
   ミチコ婆が、得心(とくしん)する。
   他の爺さんたちは、ポカンとして、目の前のふたりの、小学6年生の双子に見とれていた。
「最近の子は、成長が早いの~」
   下薗爺さんが、そう言うと、他の爺さんたちも、頷いた。
「しかも、賢い」
   楠薗爺さんも、誉める。また、爺さんたちが、頷く。
   それを見て、小野銀子は、ゼンマイ式の人形のようだと思った。
「この世界の、『金の斧銀の斧』と呼ばれる名うてのハッカー、か」
   前薗爺さんが、目を細める。
「『金子の小野と銀子の小野』じゃな」
   中薗爺さんが、薄く嗤う。
   上手いこと言うなと、爺さんたちがざわめく。
「それで、ミチコ婆の話を聞いて思ったんですけど、いっそのことその、アンドロイドに直接侵入したらどうかと。つまり、『乗っ取り』ですけど」
   銀子が、みんなわかるかしら、と心配顔で、言う。
「そんなことができるのかい?」
   ミチコ婆も、半信半疑だ。
「H&A社の、公開されてる特許を見ると、ある程度の仕組みや個人情報、この場合はDNAの、書き込みの仕方がわかります。それに、アンドロイドを買う人はわざわざH&A社までは出向いてません。
   髪の毛を1本送って、身体情報を取得して、ユーザーの好みの年齢の擬体を作ります。その時点で顔かたちも、ある程度の性格も、入っていると思われ、のちに、細かい修正をまとめたデータを送信するだけ。そこが、狙い目なんです」
「ハッキングで、伊藤直樹の母親のデータを入れ込むんだね?」
「はい。もちろんその時、先に入ってる誰だかのデータを削除しなければなりませんけど」
「わしらの、出番は、無さそうじゃな」
   神薗爺さんの言葉にまた、爺さんたちがこきこきと首を鳴らしながら頷く。
   見慣れるとなんだか、可愛いわ。
   そう心のなかで、銀子は、思った。
「やってやれないことはない。さて、いつやる?伊藤直樹の母親は、いつまでも、待っちゃくれないらしいよ」と、ミチコ婆。
「日本人のセレブのご婦人が、一体、買うってSNSに載ってたわ」
   金子が言うと、
「それだね」ミチコ婆が、決定した。

                                                               「2016年8月24日」

Koichi Tanaka KAGOSHIMA. Has written a novel