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   葛城美凪は、城島隼人と後部座席に、二人でいた。
   事件の話が出るから聞かせられないと、中島守人は外に出され、角刈りの運転手も自ら外に出た。
「お手柄だったね」
   開口一番、城島はそう言った。
   てっきり油を絞られたあげく、免許は長期免停、高校は退学。あぁ、そうだ。交通刑務所に入れられるかもしれない。
   そう思っていた。
   警察憎しの頃は、その覚悟もあったけれど、今はどこかに消え失せていた。
   消し去ったのは、中島守人に井上勇二。この二人だ。
「天文館を暴走していたオートバイと、型は似ているが、証拠はない。ライダーの顔も確認できていない。いや、男か女かもわからない」
   うつむいていた目を上げて、城島を見る。
   笑っていた。大人の優しい笑顔。
「井上勇二君はきみを助けようとした。奪われた大切なものを取り返すために、追いかけたに過ぎない。そして、ハンドルを蹴られて、殺されかけた。
   行きすぎた暴走も見られなかったと、報告が上がっている」
   ウインクする。
   続ける。
「そして、今日きみは、犯人を逮捕した。警察が身内を殺されたときの、熱の上がりようをきみは知らないだろうが、全署員がきみに、感謝してるよ」
   話し半分にしても感謝されるのは、悪い気はしない。
   それにこのまま行くと、明日からも普通の生活が送れそうな気がしてきた。いや、実際そうなるだろう。
   でも、そんなにうまい話があるだろうか?
「きみは今、出来すぎた話だと思ってるだろうけど出来すぎた話なんてものは、出来すぎたように誰かが作り上げるわけで、今回の作者は、僕なわけだ。
   つまり、出来すぎた話は良いように出来すぎていて、そこに、誰にも屈しない力、今回は僕の権力が加われば、それで出来すぎた話は完結するんだ」
   美凪は、父のことを思い出していた。あのときも、冤罪という、でっちあげで父は逮捕され、酷い取り調べの末に、命を落とした。
   権力は使いようで、正義にも悪にもなる。
   わかっていたようで、いざ目の前に出されると、自分の力の無さを実感する。
「見ていてくれ。僕は『国民の命と生活を守る警察官』だ。ねじ曲げられた正義に僕が、僕の仲間たちが、たたら吹きからやり直し、火打で焼き直しをする。
   白いものに我々が勝手に、色を塗りたくっては駄目なんだ。行動で示す。必ずっ、必ずっ!」
   城島隼人がそのくだりを熱弁する頃には、外のふたりにも、駄々漏れで聴こえていた。

                                            「2018年2月20日」

Novel Koichi Tanaka KAGOSHIMA.