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   志布志市の、町の中。   
   正面からパトカーの集団が迫る。
   見上げれば、警察航空隊のヘリコプターが、見つけたとばかりに、旋回している。
   大変なことになってるな。
   美凪はそれでも、「なんとかなるわよ」と舌をだす。
   突然、上野あけみが左バンク。
   パトカーも、追おうとするけれど、その鼻っ先を、美凪がバイクごと畳み込むように、左バンク。
   県道63号線を、峠道を、登り始める。
   登りきると、平坦な道になる。二車線のまわりは田畑が広がる。時おり、思い出しように、人家や個人商店、聞いたことのある企業の工場。そしてまた、田畑が広がる。
   パトカーも、サイレンと警告の交響曲を辺り一面、響かせながら追ってくる。
   下りに入る。と、思えばまた、上り。
   アップダウンが激しくなる。
   道を被うような樹木。道にばらまかれた、枯れ葉。
   上野あけみは、焦りを感じていた。
   コースを走るのとは訳が違うとは、鼻っからわかっていたけれど、バイクは重く、道はスリッピーだ。
   電子制御の化け物と化した、今のオートバイだから、足りない腕をカバーしてくれている。
   ミラーを見る。
   真後ろについている。
「スリップストリームっ!?」
   上野あけみは少し驚いたけれど、ならば、バックストリームで、自分も速度が上がっているはずだと、笑う。      ただ、それは、上野あけみの思い過ごしで、サーキットならいざ知らず、公道ではそれほどではない。
    見よう見まねで、くっついてみた。
   ブレーキングされたら怖いなと思いながらも、なんだか楽に走れているように感じる。
   逆に、テールにぶつけそうになる。
   観察していた。
   上野あけみは、コーナー侵入ギリギリまで、ブレーキをかけない。それはテールランプが点らないことからも明らかだ。
   そうか、ブレーキを遅らせるのか。
   美凪が導きだした、答え。
   それから、離されなくなった。
   陸上自衛隊福山演習場が、見えてきた。
   三差路を左へ。
   ここから、長い長い下り坂になる。
   バイカーたちには、心臓やぶりの下り坂だ。

                                           「2018年2月18日」

Novel Koichi Tanaka KAGOSHIMA.