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   国道220号線を走る。
   やがて右に、道の駅たるみずと左に赤い小さなカフェが見えてきた。
   いつか勇二と行ってみたいねと言っていた、バイカーたちが集まる、カフェ。
   時速は100キロを超えていた。
   見るものすべてが後ろへとすっ飛んでいく。
   牛根大橋を渡る。その先にうっすら白煙を上げる桜島が、疾駆するバイクを見下ろしている。
   上野あけみは、かなりな速度のまま左へバンク。
   追走する美凪にも、そのリアタイヤが滑っているのが見える。
   桜島の灰で滑るのだ。美凪はアクセルを戻す。
   プルクラッチ。
   シフトダウン。
   クラッチミート。
   加速。
   一瞬、リアタイヤが滑る。
   暴れる。
   トラクションコントロールが収める。
   前を見ると、離されている。
   通称、佐多街道、国道220号線を南下する。
   小さなコーナー。
   最短をトレースする。
   それでも縮まらない、距離。
   なにかが違う。
   プロとアマチュアの差。
    ほんの些細なことも見逃すな。
    守人の伯父さんが守人に語っていた言葉。
    古江バイパスに入る。ほとんど信号のないバイパスを、上野あけみはさらに加速する。
   頑張れっ、わたしたちのバイク。
   美凪は心で叫ぶ。
   わたしと中島くんと勇二のバイク。
   旧道とぶつかる。
   左バンク。
   右手に鹿屋体育大学。
   追う美凪も赤信号を突っ切る。
   クラクションを浴びながら、左手を上げる。
   あの日、勇二がしたように、ピースサインを。
   鹿屋バイパスを、前走車を縫って走る。
   右。
   スラローム。
   左。
   カウンター。
   ブレーキ音。
   クラクション。
   たちまち、道路は渋滞を引き起こす。
   串良を抜けたのか、今はどこだろう?
   巨大な銀色のかぶと虫二匹が見える。
   菱田川、安楽川を渡る。
   志布志市志布志町志布志の看板が目に入る。
   ゆっくりしたツーリングなら、楽しめたろうにと、美凪は思う。
   これが片付いたら、勇二とツーリングを。それには、勇二の意識が戻り、元気なってくれなければ。
   ふたたび、祈る。
「神様、勇二を助けてください」

                                            「2018年2月18日」

Novel Koichi Tanaka KAGOSHIMA.