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   そのまま眠ってしまった由美子を、敷いた布団に寝かせて、火の用心と鍵閉めの確認をする。
   階下に守人が、いた。
「おはよう」
「おはよう」
   守人は美凪の目が濡れていることに気づいたけれど、素知らぬ振りをする。
   ほどなく、勇二と合流する。
「今朝、ネットニュース見たひと?」
   すぐに守人が二人に質問する。
「今起きたとこ」と勇二は欠伸をして、スマートフォンを見ると、「やべっ、充電がない」と焦りだす。
   美凪も、
「わたしはお弁当作ってて見てない」母のこともあったし。と胸のうちで思う。
   天を仰ぎ、息を吐いて吸い込みながら前を向くと、守人は一気に喋り出した。
「上野あけみが指名手配されたって。とりあえずっていうか、ニュースで言ってたのは、元署長殺しの罪だけだけど」
   そして、今度は残念そうな顔で続ける。
「こないだの夜に、新署長が、そこまで喋っていいんかいって思ってたことは実は、あのときすでにマスコミに流す手はずの原稿だったわけだ。ちょっと残念だよ」
   警察を信じる気持ちに、水をさしたな、とも言う。
「そんなもんさ」と勇二。
「でも、改革しようって意気込みは感じたよ」とは美凪。
   勇二と守人は目を合わせて同じことを思う。
   変わったよな。
   美凪自身も、変わってきたことに気づいていた。そして、上野あけみと比べている。
   もし、井上勇二と中島守人に出会わなければ、憎悪の中で自分も、上野あけみのようになっていたのではないだろうか?
   ほんの一本、道をたがえたばかりに、大きく変わる人生もあるということを、知ったような気がした。
   人はひとりでは生きていけない。でも知り合うひとの影響力が強いと、人生を狂わされてしまう。
   自分で人生を選んでいるようで、その実、大河の流れの中で漕ぐ、小舟のような危うさと隣り合わせを強いられている。
   誰もひとりでは生きていけないのではなくて、ひとりで生きることを許されないのかもしれない。

                                             「2018年2月13日」

Novel Koichi Tanaka KAGOSHIMA.