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   勇二と守人は金属バットを構えて、美凪の後ろに立つ。美凪は、小さな覗き穴から、そっと覗く。
   誰だ?
   もう一度、見る。
「今晩は。遅くに申し訳ない。城島隼人と言います。えーっと。こう言えば思い出すかな?おぉ、麗しの風の女神よ」
   鳥野郎だった。
   でも、どうしてここが?
   美凪は、
「な、何ですか?ストーカーですか?警察を呼びますよ」と出来る限りの虚勢を張る。
「警察なら大丈夫。ここにほら、います」
   そう言うから、また覗くと、警察手帳の顔写真が魚眼レンズに伸びていた。
「マジでっ?」

   ロマンスグレーの髪を撫で付けながら、城島隼人は、出されたコーヒーに口をつける。
「実は僕は、鹿児島県警の新しい署長なんだ。前任者がいろいろと問題を起こしていたから、就任してすぐに、過去の事件、いや、冤罪事件を調べた。それで、高崎美凪、あぁいや、今は、葛城美凪さんに、たどり着いた。
   他にも、いろいろあったけど、あってはいけないんだが、僕はバイクが趣味だから、まずは君のことから何とかしようと思ったのさ。それに」
   もう一度コーヒーを飲む。
「ちょうど良い甘さだ。あっ、で、つまりは、君のお父さんの事件を調べている時に、東京で前任者が、殺された。ここだけの話。殺したのは、上野あけみと言う、女だ。美凪さんは知ってるだろ?
   防犯カメラにバッチシ映っていた。そして、都内のうすらバカがキーを挿しっぱなしにしていたオートバイを盗んで、姿を消した」
   こんなに内部事情を話して良いのかと、守人などは思うのだけれど、もう一方で、この警察署長は、全てを明け透けにして、信じてもらおうとしているのではないかと、思った。
   それは、葛城美凪を調べたと言うことからもわかる。
   葛城は警察に不信感しかない。いや、そんなもの通り越して、憎んでいるのだ。それを、何とかしたいと思うこと自体、真摯で前向きな気がした。
   普通なら、放っておく事案なのだ。だって、警察に不利な話ではないか。
   それをわざわざ自ら掘り起こしてきたのだ。
   さらに、城島隼人は言う。
「僕が鹿児島県警を浄化する。ひとりでは到底無理だし、仲間を探してやるのだけれど、時間がかかる。だけど、やるっ!
   口だけだと思うだろう。それで良い。
   行動しかないと思っている。
   僕の信じる正義を実現するんだ」
   また、コーヒーを飲む。
「ごめん。お代わりください」
   城島隼人は、コーヒーカップを差し出して、照れ笑いした。

                                            「2018年2月12日」

   Novel Koichi Tanaka KAGOSHIMA.