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   外でバイクの音がした。明らかに排気量の大きなエキゾーストサウンド。
   美凪は、気になってベランダに出てみる。けれど、すっかり暮れきった、月のない闇の中、赤いテールランプが見えただけだった。
「どうした?」
   勇二に聞かれて、
「うん。この団地で、大型バイクを持ってる人っていないから、気になって」と不安な気持ちを隠さずに告げる。
「上野あけみ、か?」
   守人が呟く。
「まさか。もともと葛城は、志布志市に居たんだろ?名字も変えて、ずっと離れたここまで、探せないだろ」
   勇二も少しは不安だったけれど、美凪を安心させるために、そう言い切った。
「大丈夫、俺たちが守る」
   勇二の言葉に守人も頷いた。
「それに上野あけみが元レーサーだからって、出場してたのは、大きくても250CCクラスだ。葛城も教習所で習ったと思うけど、普通と大型は雲泥の差があるからってこと。もし、バトルになっても俺たちには敵わないさ」
   そう言う勇二に、
「もう、戦うこともないよ。相手は犯罪者だ。見つけたらすぐ、110番しようよ」と守人が諭すように言う。
   美凪は頷き、それを見ていた勇二も、そうだなと、笑った。

   翌日。
   美凪が、学校から帰ると、玄関のドアが少し開いている。
   たまに母、由美子が近所の奥さん方と話に夢中になり、開けたままで離れることもあったから、手すりからほうぼうを見渡すも、姿は見えず。
   家にお邪魔してるのかもと、玄関を入る。
「ただいま」
   誰もいないとわかっていても、声はかける。もし、泥棒がいたら、ビックリして物音をたてるかもしれない。そうしたら、即、逃げるのだ。
   キッチンと六畳の洋間と四畳半の洋間の造りの部屋だから、襖が開け放たれていると、一目で見渡せる。
   キッチンに向かう。冷蔵庫に手をかける。
   食事をするテーブルの下に、いつもにはない、気配を感じて、恐る恐る覗き込むと、
「お、お母さんっ」
   葛城由美子が倒れていた。

                                            「2018年2月12日」

Novel Koichi Tanaka KAGOSHIMA.