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   全治四週間、リハビリを入れると完治まで三ヶ月ほど。
   高校生活一番羽を伸ばせる二年生の夏休みを、リハビリとオートバイ磨きに費やした美凪は、それでも退屈はしなかった。
   毎日欠かさず、勇二と守人がお見舞いに来てくれていたし、勇二にいたってはこっそり、由美子のいない夜、自分のバイクの後ろにのせて、夏の夜の街に連れだしてくれた。
   港の公園で、心地よい潮風を頬に受け、松葉杖を持たない美凪に勇二が肩を貸す。
   決まって話すことと言えば、オートバイの話が多くて、でも守人がいるときは、世の中で起こっている事件事故などの事象を分析して話してくれた。
   そんなとき決まって美凪と勇二はあくびを噛み殺すのに苦労した。
   夏の夜はカップルも多い。見ていると恋人たちは、寒い冬の日はもちろん、夏の暑い日もくっついているように見える。
   その夜もカップルの数が多くて、やっと空いているベンチを見つけてふたり、腰掛ける。
   貸りていた肩から美凪は腕を下ろす。すると、今度は勇二が美凪の肩に手を回す。引き寄せる。
   大胆だなと、いつも思う。
「フェアじゃない」
   そう言っていた守人の真摯な顔が脳裏をよぎるけれど、大きな勇二の手の温もりが、それを溶かして忘れさせてしまう。
   目の前を、桜島フェリーが行き過ぎる。
   海は今夜も静かな凪のようだ。
   ふたり、言葉はなかった。ただお互いがそこにいることを確認して、気持ちもここにあることも信じて、同じ時間のなかを、たゆたう。
   勇二が少し動く。合わせるように美凪も顔をそちらに、傾ける。
   唇が、重なる。
   時も緩やかな凪のようにそこにとどまり続けている。

                                             「2018年2月11日」

Novel Koichi Tanaka KAGOSHIMA.