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   鳥野郎というニックネームをつけられているとは露知らず、城島隼人は鹿児島駅そばの「かんまちあ」という広場に愛車とともに、待ちぼうけを食っていた。
「そう言えば、時間を言わなかったな」
   待ち合わせの時間のことだろう。それを伝えていたにしても、「風の女神」こと葛城美凪が、来る確率は低いだろう。
   城島にもそれはわかっていた。
   スマートフォンを見る。着信アリ。
「もしも、城島だ。どうした?」
   通話の相手はどうやら城島よりも年下かあるいは部下のようだ。
   「わかった。午後からの便が取れたら、それで行こう」
   通話を切ると、ロマンスグレーの髪を一度、撫で付けて、ヘルメットを手に取る。
「さて、休暇はおじゃんだ。また、会えるかな、『風の女神』ちゃん」
   エンジンに火を点し、鼓動が落ち着くのを待つ。
「高崎美凪。きみと楽しくツーリングができる日が来ることを、僕は信じてるよ」
   かんまちあから、エキゾーストサウンドが、遠ざかる。

                                            「2018年2月11日」

Novel Koichi Tanaka KAGOSHIMA.