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   来るなり、美凪は語りだした。もともと普段から口数が多いわけではない。友達も、勇二と守人以外には、喋っているところを見ていないから、いないのかもしれない。
   勇二はオートバイで、守人は同じ母子家庭という境遇と、初めて勇二が紹介したときに、守人が自己紹介で言ったことに、美凪が共感して、友達になれたのかもしれない。それは、
「中島守人です。『守人』は死んだ父が、弱者を守るために尽くせという意味でつけられました」
   まるで面接だなと、勇二は笑ったけれど、美凪は笑わずに頷いていた。

   美凪は、目を閉じて思い出すようにゆっくりと、語りはじめた。
「高崎裕也(たかさきゆうや)の話をします。
   二年前、小さな町で放火殺人事件が起きました。
   平屋一軒家の火災が起き、焼け跡から、三才の女子児童が、遺体で発見されました。
   家には、母と娘の二人だけで暮らしていたそうです。
   死因は、一酸化炭素中毒とされました。とても焼けかたが酷かったらしいのです。
   でも、母親の上野あけみが、「娘は、高崎裕也に殺されたんだ」と言い始めたんです。
   一転、殺人事件になりました。警察はすぐに遺体解剖をやり直しました。すると、女子児童の胃の中から、高崎裕也の髪の毛が出てきたのです。
   高崎裕也は殺人を否定しました。だいたい、なぜ自分の髪の毛が、女子児童の胃に入るのかと主張しました。
   すると、その上野あけみが、また、証言したのです。
『私と高崎裕也は、付き合ってました。高崎裕也には奥さんと娘さんがいました。そのことは知っていました』
   でも、愛していたとも、言ったそうです。
   高崎裕也とその奥さんは、証言しています。
『一年ほど前から、上野あけみにストーカーされていた』でも、警察には届けていませんでした。
   女子児童の胃の中の髪の毛が、事件の焦点になると思われましたが、捜査はあっけなく進展して行きました」

                                            「2018年2月5日」

Novel Koichi Tanaka KAGOSHIMA.