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   バス停に向かって走っていた美凪は、突然聞き慣れた声に呼び止められて、息を呑んだ。
   振り返り様、ボディバックを無意識に背中に回す。
「あっ、あぁ、中島君。偶然ね、どうしたの?」
   どうしたのとは、こちらの台詞で、今こうしてる間にも、遠くへ行かねばと、美凪の足元はあさってを向いている。
「帰るんだろ?車、乗ってけばいいよ。送るよ」
   守人は自分でも、乾いた冷たい声音で喋りかけているとわかっていながらでも、この状況がただならぬものだと、冷静に分析していた。
   バイクが欲しいんだとよ。と、勇二から聞いていた。
   そして、自分と同じ、母子家庭だとも、知っている。
   ラブホテル。
   焦る女子高生。
   後ろ手に隠すような、バッグ。
   このまま、この場に居続けようかと、意地悪なことも一瞬、ほんの一瞬考えたけれど、そこは惚れた弱味。すぐに車に乗せ、家族に適当に事情を説明して、走り出した。
   周りに気づかれないように、後部座席から、ドアミラーを見る。
  キョロキョロ道路に走り出す、中年男性が、映っていた。
   
   ネットの出逢い系で誘いを掛けて、ホテルに入るも、言葉巧みに相手を風呂に行かせて、その間に財布から金を抜きとるという、寸法だ。
  武士の情けか、ホテル代は残しておく。
  全部、守人の推理に過ぎない。それを自分自身、信じたくもない。
   だから、そのことは黙って、イオンのトンカツ屋でトンカツを食べて、家まで送るまで、笑顔でいた。
   目は笑っていなかったかもなと、別れてから思い返す、守人。
   次の日、憂鬱な月曜日。勇二と守人にメールがあった。
「朝イチ、話したいことがあるので、六時半、体育館の裏に集合。美凪」

                                              「2018年2月4日」

Novel Koichi Tanaka KAGOSHIMA.