1


   葛城美凪(かつらぎみな)は、母、由美子が遅出の看護師の仕事に出掛けるとすぐに、バイクのカバーをはずす。
   黒のジャンプスーツに、シンプソンのマッドブラックのヘルメットを被る。
   高校生になってすぐに、バイクの免許を取った。
   学校では、バイク通学禁止でなおかつ、免許取得も、やむ終えない家庭の事情によるアルバイトで、使うことを前提に許可している。
   見つからなければ、大丈夫。美凪の口癖。
   葛城由美子は、女だてらに、大きなオートバイに乗って、危ないわよ、彼氏も出来ないわよ、早死にするわよと、耳に痛いことばかりを言うけれど、結局は許してくれた。
   それは、美凪がまだ中学生の時に起こった事件に、起因している。
   許す理由なのかどうかは、由美子にもわからないけれど、母ひとり子ひとり、心配もし、信じてもいるのだった。
 
   美凪がバイクに跨がると、スターターを押す。
   並列(直列)4気筒DOHC948㏄エンジンが、目を覚ます。
   はじめ早鐘のよう、やがて、乗ってくれる嬉しさを噛み締めるように、落ち着いたエキゾーストサウンドを、奏ではじめる。
   美凪はゆっくりと、夕暮れの街に走り出す。

                                            「2018年2月2日」

Novel Koichi Tanaka KAGOSHIMA.